目次
開催案内
日時
2022年7月8日(金)15:00~18:00
開催形式
Zoomオンライン配信
参加登録:https://forms.gle/3KdLj7QPayGbujcp7
プログラム
15:00〜16:00 |
講演1 「餌の毒で身を守るヘビ:2つの毒器官を持つヤマカガシ」 森 哲博士 京都大学理学研究科生物科学専攻 教授
マムシやコブラなどで代表される毒ヘビの毒は口腔上部にある腺で生合成される。毒は牙を通して獲物に注入され、捕食の補助として使用される。日本に広く生息するヘビであるヤマカガシも同様の毒腺を持つが、これとは別に頸腺と呼ばれる特殊な毒器官を頸部背面の皮下に備え、天敵に対する防御用として利用する。頸腺に蓄えられている毒はヤマカガシが自分で作ったものではなく、餌として食べたヒキガエルの皮膚毒に由来する。本講演では、脊椎動物の中でも特異的な防御器官である頸腺のシステムについて紹介する。 |
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16:15〜17:15 |
講演2 「いつ誰が「眠る」か?細菌の成長と休眠」
大腸菌は環境が良ければ20分程度で成長分裂するが、環境が悪くなると休眠状態に入る。場合によっては何日も休眠状態で生き続け、環境が改善すると再び成長を開始する。この状態の変化は細胞間で一様ではなく、環境が良くても一部の細菌は休眠状態になることがある。これは一見無駄に思えるが、休眠状態の細菌は、成長している細菌が耐えられないストレスを与えてもしばしば生き残ることができることが知られている。つまり、突然の環境変化があっても誰かが生き残る確率が増えるわけである。この講演では、細菌の成長と休眠の現象論と役割をいくつかの視点から議論したい。 |
17:15~18:00 |
継続討論会 |
備考
◎本コロキウムは理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学・理化学研究所に在籍されている方はどなたでもご参加いただけます。
◎学内教育プログラムに関するイベントであるため、学外・一般の方の登録は原則不可としております。ご登録いただきましてもリストより削除させていただくことがあります。
◎なお、MACSコロキウムの講演は講師の先生の許諾が得られた場合、後日京都大学OCW(YouTube)に公開されますので、そちらをご覧いただきますようよろしく御願いします。
http://www.sci.kyoto-u.ac.jp/academics/programs/macs/archives.html
問い合わせ先
macs*sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)
講演動画
講演1「餌の毒で身を守るヘビ:2つの毒器官を持つヤマカガシ」森 哲氏
講演2「いつ誰が「眠る」か?細菌の成長と休眠」御手洗 菜美子氏
開催報告
京大理学研究科生物学教室 森哲教授
「餌の毒で身を守るヘビ:2つの毒器官を持つヤマカガシ」
ヘビは誰もが知っている動物であるが、ではヘビの生物学的な特徴とは何か、という基本的な問いから森先生のお話は始まりました。細長い、足がない、皮脂がないと言った特徴は、ミミズやトカゲの仲間でも持つものがいる。ヘビの他にない大きな特徴は、相対的に大きな生きている動物を丸呑みにする、ということでした。
そして今回はヘビの中でも、ヘビの持つ毒についてお話しいただきました。毒を持つ動物群は、防御または捕食、どちらかのために毒を持つように進化してきました。森先生が着目されているヤマカガシというヘビは、毒器官を2つ持つ世界的にも珍しい動物です。1つは捕食用の後牙にある毒。もう1つは首のあたりの頸線と呼ばれる場所にある防御用の毒。森先生は頸線の毒がブファジエノライドと呼ばれるヒキガエルの持つ毒の主成分と同じであることに着目し、ヤマカガシの頸線の毒がヒキガエルを捕食することによって取り込んでいることを突き止めました。 またヤマカガシは何らかの方法で自身が頸線に毒を蓄えていることを認識していることを、ヒキガエルのいない島や、ヒキガエルの多い地域で生息しているヤマカガシの行動を調べることで突き止めました。そして、頸線を持っているのはアジアの少数のヘビのみで、類似の器官を持っている脊椎動物がいないこと、別の頸線を持つヘビはマドボタルを捕食することで毒を得ていることが最近分かったこと、マドボタルはヒキガエルと同じ成分の毒を持つ唯一の生物であること、今後は、なぜ一部のヤマカガシの捕食対象は、ヒキガエルから同じ毒を持つマドボタルにうまく変わっていったのかを研究していきたい、ということをお話しいただきました。
質疑応答と継続討論会も盛り上がり、多くの質問に答えていただきました。なかでも、どうしてヘビを研究対象にしたのか、という質問に、単純にヘビが好きだから、幼稚園のころから好きだった、という回答をしていただいたのが印象的でした。
(文責:冨田夏希)
第20回MACSコロキウムの後半は、コペンハーゲン大学ニールスボーア研究所の御手洗菜美子博士に「いつ誰が「眠る」か?細菌の成長と休眠」というタイトルで講演していただきました。
講演は細菌の成長や休眠の説明から始まりました。飢餓状態の細菌に栄養を与えると、数が増え始めるまでにタイムラグがあり、次第に分裂によって指数関数的な増加を示すようになります。栄養が枯渇するなどの理由で環境が悪化すると、増殖は止まって飢餓状態になり、最終的には細菌数が指数関数的に減少します。飢餓状態の細菌は驚異的な性質を持っており、豊富な栄養下では30分で分裂できる細菌を1ヶ月間炭素飢餓状態にしても1割程度が生き残るそうです。また、分裂を繰り返す細菌よりも分裂しない休眠状態(dormant)の細菌の方が高いストレス耐性を示すことが分かったため、飢餓状態において大多数を占める休眠状態の細菌への関心が高まっているようです。
続いて、細菌にとって最適なタイムラグを数理モデルで考察した研究が紹介されました。具体的には、飢餓状態の細菌の一部と栄養に加え、確率pで抗生剤を混ぜて、T時間後に洗い流し、細菌をしばらく飢餓状態にするというサイクルを繰り返す設定で、細菌の最適な(最終的に到達する)タイムラグλが求められました。p<<1ではλ=0ですが、pを大きくしていくと不連続転移が起きてλが有限の値になるそうです。また、タイムラグの異なる2タイプの細菌がいる状況を考えると、小さすぎず大きすぎないpの値では、両タイプの細菌が生き残るベットヘッジ戦略がとられることが示されました。
最後に、遺伝子変異は起きていないのにも関わらず一部の細菌がストレス環境下で長時間生き残る、パーシスタンスと呼ばれる現象に関する研究が紹介されました。指数関数的に増加している細菌の一部を取り出し、抗生剤に長時間浸すという実験を行うと、細菌の減少していく速度が少なくとも2度遅くなるそうです。パーシスタンスは休眠状態の細菌が引き起こしている場合が多く、今回の実験によって分裂を繰り返す細菌でも一部は休眠状態になることが示唆されています。また、抗生剤を与える前に1時間飢餓状態にすると、少なくとも4日間は生き残る細菌の数が100倍程度多くなるそうです。僅かな時間の飢餓状態がパーシスタンスに大きな影響を与えることが示されたことになります。これらの現象は、正のフィードバック機構を持つ4つの要素からなる資源分配モデルによって説明可能であることが講演の最後で示されました。
講演後の質疑応答では、細菌の休眠と動物の冬眠との関係や、休眠状態はどのくらいありふれた状態なのかについての議論で盛り上がりました。
(文責:伊丹將人)