目次


開催案内

日時

2020年11月13日(金)午後3時から

 

講義形式

オンライン配信(Zoom)

参加登録:https://forms.gle/b7RFMBQXevXRRG597

登録されたアドレスに、Zoom のミーティング ID を送付いたします。

 

プログラム

15:00〜16:00 講演1
「神経系のやわらかい情報処理」
川口 真也 博士(京都大学理学研究科 生物物理学教室 高次情報形成学講座 教授)

動物の脳では、膨大な数の神経細胞がつくるネットワークで情報がやり取りされることで、モノを見聞きし、考え、学習するなど神秘的な機能が実現します。脳が記憶をつくる仕組みなど分子や細胞レベルで研究が進み、その理解は流行りの人工知能(AI)の進化にも役立ってきました。

この講演では、やわらかい計算機としての脳を実現する、分子・細胞のダイナミックな仕組みについて、数理的な視点も取り入れてお話したいと思います。

 

16:15~17:15 講演2
「計算機シュミレーションで細胞の中を観る」
杉田 有治 博士(理化学研究所 開拓研究本部 杉田理論分子科学研究室 主任研究員)

細胞の中には多くのタンパク質などの生体分子が高濃度で存在します。このような混雑環境で、それぞれの生体分子が固有の機能を発現する分子機構はまだまだよく理解されていません。生体分子の立体構造はX線結晶構造解析などで決定できますが、分子混雑環境における分子ダイナミクスや分子間相互作用を同じように実験的に解析することは困難だからです。私たちは計算機シミュレーションを用いて、この問題に挑んでいます。また、そのために開発しているプログラムや分子モデルについても紹介したいと思います。

 

17:15~18:00

継続討論会

 

備考

理学部・理学研究科の学生・教職員が対象です。

 

問い合わせ先

macs@sci.kyoto-u.ac.jp


講演動画

『神経系のやわらかい情報処理』川口 真也氏

 

『計算機シュミレーションで細胞の中を観る』杉田 有治氏

 


開催報告

第13回MACSコロキウムでは、川口真也博士(京都大学大学院理学研究科)と杉田有治博士(理化学研究所開拓研究本部)の連続講演が行われました。

 

川口真也博士には「神経系のやわらかい情報処理」というタイトルで講演していただきました。講演は、我々の脳とスーパーコンピュータとの比較から始まりました。莫大なエネルギー消費によって論理的な計算を素早く行うコンピュータと比べて、脳は省エネで遅く直感的な計算を行います。しかし、この直感的な計算の土台である「脳の学習・記憶メカニズム」は脳神経科学のみならず人工知能(AI)の学習システム構築においても注目を集めています。現在、学習・記憶の細胞基盤は神経細胞間をつなぐ「シナプスの可塑性(刺激に応じて神経細胞間の情報伝達の強度が変わること)」だと考えられています。

講演の前半では、このシナプス可塑性の分子ネットワーク解析について話されました。培養プルキンエ細胞による長期記憶を模した実験系と、神経伝達に関する既知の分子ネットワークに基づいた数理シミュレーション(約100変数の微分方程式)とを組み合わせた解析を通して、神経細胞は刺激の強さを漏れのあるCa2+シグナルの時間積分として計測することや、この計測量の閾値決定にはPDE1(ホスホジエステラーゼ1)分子が関わることなどを見出されました。

講演の後半では、シナプスを介した情報伝達(シナプス伝達)様式がどのように調整されているのかについて話されました。シナプス伝達では、シナプス前細胞の軸索末端から放出されたシナプス小胞がシナプス後細胞の樹状突起によって受け取られます。これまでの知見から、シナプス伝達はシナプス前細胞の即時放出可能小胞数(N)と放出確率(p)、後細胞の反応の大きさ(q)の積で説明できると考えられています。しかし、状況に応じたシナプス伝達様式の変化(微分的だったり積分的だったりする)とN・p・q各項目との関連性はよく分かっていませんでした。今回、単一シナプスの実験操作・直接電気記録と数理シミュレーションとを組み合わせた解析を通して、Nとpの両者が動的に変動しながらシナプス伝達様式が規定されることが新規に見出されました。講演後の質疑応答では、数理シミュレーションそのものや数理と実験とを組み合わせた解析系の発展性についてなど、様々な議論で盛り上がりました。
(文責:高瀬悠太)



理化学研究所の杉田有治さんに「計算機シミュレーションで細胞の中を観る」というタイトルでお話いただきました。

地球シミュレータ、京、富嶽という日本のスーパーコンピュータの歴史と杉田さんが富嶽の設計にどのように関わってきたかについて振り返るところから始まりました。ご自身の研究に関してはまず、タンパク質やカルシウムポンプなどの分子動力学計算について説明していただきました。最近の研究では、実験では見えづらくシミュレーションでも計算コストがかかる細胞中で多数のタンパク質が混雑しながら動いている状況に対して、スーパーコンピュータを使った分子動力学計算から見えてきた現象を最新の動画とともに紹介していただきました。計算結果として、ATPのような低分子が細胞中混雑環境に特有の働きをしていることを発見されました。
このような混雑環境での分子の動きを理解することは、創薬の観点からも重要な点の一つということでした。関連して現在では、新型コロナウイルスの分子レベルでのシミュレーションを始めておられて、この研究は将来的にはワクチン開発につながっていく可能性もあるようです。

 (文責:太田洋輝)