あなたは転写因子派、エピジェネティクス派?
日時
2018年11月7日(水)16:30〜
場所
京都大学理学部1号館106号室(BP1)
⇒アクセス 建物配置図(北部構内)【2】の建物
講師
Ken W.Y. Cho 教授
Developmental and Cell Biology, School of Biological Sciences, University of California, Irvine
概要
鶏と卵のどちらが先にできたのかと聞かれたらどう答えますか? これと類似した課題が実は初期発生にもあります。動物の発生は一つの全能性細胞(受精卵)を作ることで始まり、やがて受精卵は細胞分裂を経て、3つの胚葉(内、中、外胚葉)へと分化します。この過程で重要なのは、転写因子による遺伝子制御と、クロマチンのエピジェネティクスです。では初期発生時期の細胞運命を司る遺伝子の発現は、どちらのメカニズムがより有効に作用しているのでしょうか? システムバイオロジーのデーターをもとにカエルとマウスでのお話しをします。
開催報告
MACS特別セミナーでは、UC IrvineのKen W.Y. Cho教授に「あなたは転写因子派、エピジェネティクス派?」という演題で講演していただきました。
脊椎動物の初期発生では、1つの細胞(受精卵)が細胞分裂を経て三つの胚葉(外・中・内胚葉)へと分化していきます。この際、細胞分化が適当に起こってしまうと、きちんとした「からだ」は作れません。つまり、遺伝子発現が時空間的に制御されているはずです。現在、この制御には、「転写因子による遺伝子発現」と「クロマチンのエピジェネティクス」の2つが重要であると考えられていますが、この2つがどのように絡み合っているのかはよく分かっていませんでした。講演の前半では、カエル胚の初期発生に注目し、母性転写因子(卵の中に元からあった転写因子)と胚性転写因子(受精後に新たに作られた転写因子)のゲノム結合、およびクロマチンのエピジェネティクスの3つに注目した解析について話されました。そして、まず母性転写因子群がエンハンサーに結合し、その後にクロマチンの状態が変化して転写が始まることが分かりました。このほか、母性転写因子群の中でもパイオニア転写因子とそれ以外の転写因子との関係性や、発生の進行に伴っていくつかの母性転写因子が同じグループに属する胚性転写因子に置き換わることなど、初期発生過程における転写因子とエピジェネティクスの時空間的な制御の一端を明らかにしました。
講演の後半では、マウスの初期発生、特に将来の「からだ」を作る内部細胞塊(ICM)と胎盤などの「からだ」以外を作る栄養外胚葉(TE)とが分離していく過程に注目した解析について話されました。そして、初期発生の制御・安定性における遺伝子発現のゆらぎの重要性について、実験と数理シミュレーションとを組み合わせて説明されました。最後には、細胞分裂のサイクルが長い(12-24 hr/回)哺乳類と、サイクルが短く(30 min/回)多数の細胞がある良性の初期発生のシステムの違いについて考察され、活発な質疑応答が行われました。(文責:高瀬悠太)