目次
開催案内
日時
2021年7月5日(月)15:00〜18:00
開催形式
Zoomオンライン配信
参加登録:https://forms.gle/EvCqEFgNYxpXAvjA7
登録されたアドレスにID・パスワードを送付いたします。
プログラム
15:00〜16:00 |
講演1 森羅万象を記述する物理学的運動方程式は時間反転性を持つにもかかわらず、我々の身の回りに生じる生物・化学現象は時間不可逆的に発展する。この過程は、物理的にはミクロな量子系と、溶媒やタンパク質に代表されるマクロな系との相互作用により起因している。これら非平衡現象の基礎を数学的な観点を入れて、幾つかの量子熱力学や生物化学物理現象を例に解説する。 |
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16:15〜17:15 |
講演2 量子コンピュータを使うということは、チップの内部で量子力学の原理に従った現象を起こすということであり、量子力学の理論の検証を行う実験装置(量子シミュレータ)としての利用の道が開かれる。本講演では、量子アニーリングの初歩的な解説から始めて、量子アニーリング装置を量子シミュレータとして使った「実験」の研究成果を解説する。 |
17:15~18:00 |
継続討論会 |
備考
本コロキウムは理学部・理学研究科の学生・教職員が対象ですが、京都大学の方ならどなたでもご参加いただけます。
問い合わせ先
macs*sci.kyoto-u.ac.jp 〔*を@に変えて送信してください〕
講演動画
『生物化学物理を支配する非平衡量子統計力学』谷村 吉隆氏
『量子アニーリングを用いた量子系のシミュレーション』西森 秀稔氏
開催報告
2021年度2回目である第16回MACSコロキウムでは、谷村吉隆 博士(京都大学大学院 理学研究科)と西森秀稔 博士(東京工業大学 科学技術創成研究院)の連続講演が行われました。
一人目の谷村吉隆 博士には「生物化学物理を支配する非平衡量子統計力学」というタイトルで講演していただきました。講演は量子力学(シュレディンガー方程式)の解説から始まり、量子散逸系の動的過程を非摂動的に厳密に計算できない問題点について説明されました。続いて、谷村先生ご自身が導出された、この問題点を解決可能な方程式である「量子散逸系の階層方程式(Hierarchy Equations of Motion; HEOM)」について解説されました。最後に、HEOMの生物化学物理への応用例として、熱浴モデルで記述される広範囲の問題の熱力学量を計算可能とする、HEOMによる熱力学変数の計算に関する話題などを話されました。講演後の質疑応答では、HEOMの考え方や応用への取り組み方など、深い内容の議論で大いに盛り上がりました。
(文責:高瀬悠太)
第16回MACSコロキウムの二人目の講演者は西森秀稔博士(東京工業大学 科学技術創成研究院)で,「量子アニーリングを用いた量子系のシミュレーション」というタイトルでご講演いただきました.
量子アニーリングとは,組み合わせ最適化問題の解法として西森先生らにより提案・定義された汎用近似解法のことです.ここ数年において,量子アニーリングマシンを量子力学の実験装置として使った研究が急速に発展しています.もちろん,我々が普段使用しているコンピュータでも数値計算により実際の現象をシミュレーションできますが,量子アニーリングマシンでは,実際の物理現象を量子チップ内で人工的に引き起こし,物理実験装置として利用します.ご講演の前半では,研究方法の基盤となる量子アニーリングについての入門部分を平易にご説明いただきました.量子力学における状態の重ね合わせとその行列表現から復習し,量子アニーリングが組み合わせ最適化問題の解法のために提案されたことの背景と理論的な枠組みをご解説いただきました.
後半は,量子アニーリングを応用した量子シミュレーションによる最新の研究成果へと話題がうつります.まずはKosterlitz—Thouless転移とShastry—Sutherland模型に関する結果を丁寧にレビューしていただき,最新研究の一端を垣間見ました.その後,いよいよ主題であるKibble—Zurek機構に関する西森先生の研究成果をご紹介いただきました.非平衡相転移に関わる理論Kibble—Zurek機構についてその問題意識から丁寧にご説明いただいた後,人工的な量子デバイスであるD-waveの量子アニーリング装置を用いて実験的に検証したところ,孤立系について構築された一般化Kibble—Zurek機構が,環境と相互作用している系に対しても成立しているだろうと結論づけました.特筆すべきは,量子シミュレーションにより,理論がその適用範囲を超えて成立することの示唆を得た最初の例であるということ,そして古典モデルではD-waveマシンのデータを説明できないということです.他にも,量子シミュレーションによる実験データと理論とが整合していることを検証した西森先生の研究成果としてGriffiths—McCoy特異性に関するものがありますが,今回は時間の都合上,残念ながらご紹介いただくことは叶いませんでした.
ご講演後の質疑応答では,「量子アニーリングを用いたシミュレーションは,どのような問題に対して古典コンピュータによるシミュレーションよりも大きな利点をもつのか」という核心的な問いが提起されましたが,これは未解明であり,解決へ向けて今後より一層の理論研究が待たれるとのことです.
(文責:小林 俊介)