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第2回

三輪:まああと一巡くらいお話をしていただこうかと思いますけれども、どうしましょうか。さっきちょっと工学部の先生に来ていただいていろいろ話していたんですが、そのとき、大学に入ると高校のときのクラスみたいなものがなくなってバラバラになってしまうんじゃないかということが話に出ていました。それだけじゃなくて、今は高校でも仲間の中でお互いの位置付けをするようなつき合いというのがなくて、実は一人一人がブロイラーみたいに他と切り離された形で高校生活を過ごしてきてるんじゃないかとその先生は言われていたので驚きました。多分我々の時はそういうことはなかったと思うんだけど。だから次は、大学に入ってから仲間や友達のことでこんなことがあったというような話をしていただければと思います。僕の場合は、今で言う自主ゼミのようなことをしていたのを覚えています。最初にクラスで集まった時に、誰かが「この中で数学へ進みたいと思っている人は誰ですか」と言って僕も手を挙げました。じゃあ一緒に勉強しようかということになって、2年くらいやっていたような気がします。何かそういうことに関してお話をお願いします。

福田:クラスで何かやるというのはわりとあったように思います。まず、入ったら必ずクラスコンパみたいなことをやりましたよね。また、あの頃は、講義が空くと麻雀に行こうとかいうこともありましたし、クラスの授業があるとそこには必ずみんな来ていましたね。それから、ゼミみたいなことをやるというのもありました。今とかなり違うなと思うのは、遊び方ですね。昔は、一人でやるパチンコみたいなものはあるにしても、何人か集まってビリヤードに行くとか、コンパや飲み会をするとかいうことがけっこうありました。そういうのが最近無くなってきているのかもしれませんね。そこが今の学生さんと違うのかなという気がします。それから、私は下宿してたんですが、下宿が今みたいなアパートじゃなくて間借りでした。ふすまを開けるとすぐ隣に人が住んでいる。その下宿にいた理学部の先輩に「大学の講義なんてそんなにすぐ始まらないんだよ」というようなことを言われて、1週間ぐらいたってから大学に行ったらもう講義が始まっていたというようなこともありました。あと、サークルもありました。私は軽音楽をしていて、そういう付き合いもけっこうありました。今でもそういうことをやっている人もいるし、そうでない人もいますので、今はどうかという話ではないですが。ただ今は、便利になりすぎているところがあって、一人で閉じこもってもいろんなことができてしまうということがあるので、そこはちょっと気をつけておかないと違うのかなという気がします。

平野:何を言ったらいいかな。今までの話を聞いていてある程度出てきたとは思いますが、京都大学は全ての講義がすごくいいという状況にはなっていないというのは多分事実だと思います。それでも京都大学、特に理学部に来たメリットはなんなのかと言うと、やっぱり一つは、求めれば、教員など、自分を高揚させるためのいろんな機会が揃っているということだと思います。もう一つは、同じ学生さんたちの仲間でいろんな能力を持った人がいるということだと思います。付き合っていると、違った人間、違った考え、違った能力の人間がいるということに接することができます。新しく入って来た学生さんは、そういう機会を十分に活かしていただければいいと思います。ここで自分のことを言うのもあれなんですが、私の子どもたちに関して言えば、昔に比べて人づき合いが減っているという感じはしていません。うちの息子は全然勉強しなかったので大学はどうなるのかと思っていたんですが、友達づきあいはやたら好きで、いろんな企画をたてたりして、大学生活はかなり楽しんでいるようです。娘はもう大学は出ていますが、高校時代からよくつき合ってた子たちとつき合っています。そういうわけで学生さん同士の関係が希薄になっているような気もあまりしていません。ただ一方、少人数担任面談なんかをやっているとほとんど話さない子もいます。山本さんはよく御存知かもしれないですが、そういう学生さんの中には見てて本当に心配になるような学生さんもいます。大学に出て来られずに家に閉じこもっているというので「何をやってるの?」と聞くと「ずっとゲームをしています」とか言うんです。そういうようなことをしてある程度時間が過ごせてしまって生の人と接しなくても済むような時代になっているんだろうなと思います。ただ、そうするよりもできるだけ生の人間と付き合って、違った考え方、違った人と接してほしいです。人と付き合うのはめんどくさいことでもありますが、そういうことをして、この世の中で自分のポテンシャルを伸ばして、より良く、より楽しく人生を生きていく糧にしてほしいと思います。

有賀:僕は学生の時には寮に入ってたんです。残念ながら吉田寮ではないんですが。京大に来て吉田寮というのを見て、「ああ、ここに来たかった」と内心ちょっと思ったんですが、まあ、そうではない寮です。平野先生が人間関係はめんどくさいこともあるって言われましたが、寮にいるとめんどくさいことばかりで、深い、ヘヴィーな人間関係でしたが、それはそれなりに面白かったです。その中で自主ゼミみたいなこともやりましたが、それ以外のことの方が圧倒的に多かったです。新入生に向けてしゃべることにしますが、高校はクラスがあってクラスの中でいろんな人間関係があるんだと思いますが、大学はクラスという概念は必ずしも明確にはないです。その意味で、大学は、ずっと一人でいたいと思えば別にずっと一人でいられる場所なんです。それはそれで良い生き方かもしれませんが、やっぱり人とコミュニケーションするということにはまた別の面白さというか楽しさもあるので、それは使い分けるというか、両方あった方がいいと思います。特に、大学4年間ずっと一人でいるというのは、やっぱりしんどい時はしんどいので。そういう時のためにっていうのは変ですが、誰か話ができる人っていうのは居るといいと思います。一人暮らしをする人が多いと思いますが、友達がいなくても、話しかけるとお互いでだんだん話ができたりすることもあるので、そういうことも思っておいていただけるといいなと思います。

畑:関係ないですけど、今朝山本さんが、学生たちを動物園へ連れてったというのを聞いて感動したんですけど、大変ですね。

山本:でも、すごく楽しいですよ。八つ橋手焼き体験もしに行ったんです。有賀先生も。

有賀:僕も行きました。

畑:ああ、一緒に行ったんですか。…僕は、振り返ってみてもお友達はあんまり居なかったなと思います。まあ別に、無理に作らなくてもいいと思うけど。共通の興味を持っている人や一緒に勉強する人というのは自然と出てくると思いますし。たとえば物理だったら3回生の課題演習とか4回生の課題研究とかがあって、自然と一緒に勉強せざるを得なくなるので、そんなに焦らなくてもそういった人は自然とできると思うんです。というか、友達がいないということをそんなに深刻に考えたり悩んだりしなくてもいいと思うんだけどな。

平島:僕はちょっとお友達ということから視点をずらさせていただいていいですか?アルバイトのことを話します。京大生のみなさんは、高校生の時はあんまりアルバイトはされていなかったと思うんですが、大学に入ってからはする人がけっこういらっしゃいますね。それぞれのご家庭の事情によって、十分に仕送りを受けておられる学生さんから、学費や生活費を全部自分で稼ぐという学生さんまでいます。そこで非常に問題になってくるのは、時間配分のことです。全部自活するという学生さんは、やっぱり奨学金なりをなるべく借りて勉強の時間をできるだけ確保していただきたいです。お友達という観点で行くと、アルバイトをすると絶対誰か大学以外の人とインタラクションしないといけないので、それは人づき合いという面ではいいかもしれませんが。僕が気になっているのは、夜遅くに働くことです。夜遅くに働くと、朝大学に来られなくて必然的に授業に出られないので、留年する率が高くなってしまいます。昔の我々だったら、アルバイトの王道は家庭教師や塾でしたが、できればそういう夜11時には終わる仕事にしていただければと思います。学業に影響が出てきてしまうので、学生さんにはよく考えていただきたいと思っております。

三輪:みなさん、どうもありがとうございました。これから教授会がありますし、あまり遅くなってもいけませんので、今回はここまでにしようと思います。これは全部で3回やるので、それぞれの回がちょっと違った形になるかと思います。今日は今日の特色が出ていると思います。どうもありがとうございました。

(第2回目座談会 終わり)

 

編集後記:今回の座談会は、大学で学ぶにあたっては「優等生」である必要はないのだ、ということを先生方が口々におっしゃっていたのが印象的でした。必ずしも授業に毎回出席しなければならないわけでもなく、どの科目も全部やらなきゃならないわけでもなく、無理に友達を作ろうとする必要もない。「優等生」の人はもう少し「チョイワル」になって、とにかく自分が面白いと思うことにいろいろ首を突っ込んでみて、やりたいことが見つかったら粘り強く取り組んでみる、というのはどうでしょうか。

 


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