山方 優子
地球上で最も深い海は、太平洋マリアナ海溝のチャレンジャー海淵であり、その深さは最新の計測で10,911m とされている。これはエベレストを逆さまに向けても届かない深さであり、人類が到達したことは未だないフロンティアだ。この未開拓な領域の海底探査などにより、近年、新種の生物が多く発見されている。
発見される深海生物たちは、ものすごくグロテスクな身体の造りをしている。彼らはみな、餌の少ない深海で生きていくために身体を改造した曲者たちなのである。
というのも、深海は生きていくために決して楽とは言えない環境であり、そこにいる生物たちは、光のない暗黒、水圧の高い高圧環境で活動しているからだ。例えば、日光の届かない200m 以深で暮らす生物の一部は、少しの光でも取り込めるように眼が大きく発達し、かつ光を感知しやすいように頭の上に眼がついている。これは、光を感知することで上から降ってくるプランクトンや魚の死骸を逃さないようにしていると考えられている。
多くの深海生物は、貴重な獲物を大量に捕らえ、または逃さないために口が大きく、歯もかなり鋭い構造になっているのも特徴である。更に、自らの身体の一部を発光させて獲物をおびき寄せて、近くによってきたものを捕食するという強者もいる。
このように究極に獲物が少なく生存に困難な環境で活動し、しかも身体の構造を変えてまでして深海で過ごす生物たちがいるのはなぜなのだろうか。答えは簡単である。彼らは皆、過去に捕食者から逃れてきた生き物たちなのだ。生物は皆、生き残っていくために過酷な環境に行ってまでも生きていく術を身につけて進化してきたのである。深海生物は進化の歴史が凝縮されている。そこが面白い。