平賀 椋太
化学の授業で、ペーパークロマトグラフィーというのをやったことを覚えていますか。紙にサインペンでしるしをつけ、溶剤をしみこませていくと、サインペンのしるしが、溶媒で広がるにしたがって黒いインキとして混ぜていた何種類かの色素に分かれていきます。
化学とあまり関係なさそうな実験ですが、こうして簡単に物が分かれるということが化学とその応用にあたって重要になってくるのです。
クロマトグラフィーはロシアの科学者ツヴェットが植物の色素を分離する際に使い、1906 年に命名したとされる手法です。紙やスポンジのような固定相の中を移動相が流れるというのが基本的なしくみで、物質が移動相と固定相、どちらと相性がいいかで物質が分かれます。
固定相と移動相はいろいろ選べるので、化学の実験室などではガラスの筒の中にシリカゲルを詰めて、上から液体を流すという方法が使われます。何種類かの物質がまざったものでも、この筒に入れて上から適切な液体を流せば、順番に一つずつ出てくるのです。
たとえば、生き物の中で働くタンパク質がどんな働きをするのだろうということを調べるためには、こうした方法で生体中から取り出して調べます。身近な例としては、妊婦が分泌するタンパク質と相性のいい固定相が妊娠検査薬として市販されています。こういった形で取り出してきてはじめて、物質をあつかう科学である化学で目の前で起きていることを理解することができるようになるのです。