廣田 誠子
自然界には様々な有機化合物があり、医薬品をはじめ農薬や肥料といった薬品類、半導体や繊維、染料など工業製品の材料など幅広く利用されています。こうした天然の化合物は複雑な構造を持ち、合成が難しく高価で希少なため、化学者たちは、それらの人工合成を目指してきました。
今回、米カリフォルニア大のマースらはコンピューターを駆使した「ネットワーク解析」と呼ばれる手法で、トリカブトなどに含まれるアルカロイド(窒素を含むアルカリ性の植物成分)の仲間のうち、有機化合物の中でも最も複雑な骨格を持つとされる二種類の化合物の合成に成功しました。
「ネットワーク解析」とは1970 年代にコリー氏によって開発された方法で、化学物質の基本的なパーツやそれらの間の基本的な反応をもとに、どのような変形が起こりえるかをコンピューターによって計算していくものです。
今回の成功の鍵は、マース氏らが「ネットワーク解析」を視覚化できるプログラムを開発したことにあります。複雑な化合物の合成方法を探す時に避けられなかった煩雑さを減らし、これまで難しいとされた複雑な化合物の合成を初めてやってのけたのです。
マース氏らは、今回合成に成功した二種類の化合物の仲間全てに共通する中間状態を経由する合成方法を見いだしているため、成功した二種類以外の合成方法の発見にも手をかけた状態といえます。この成果を元に、今後、どんな有機化合物でも合成できる日が来る可能性が期待できます。