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1回目

 

西村:植物学教室の西村です。皆さんのお話を聞いて、とても面白かったです。ただ、きちんと理解できているかどうかは不安が残ります。先ず、この「不安」の話をさせて下さい。うちの研究室にいた大学院生、永野惇さんと言いますが、彼が行った活動の話です。学部生の時は、友人どうし集まってそれぞれが何の研究をしているか話し合うと、生物系でも数学系でも物理系でもお互いの話の内容は良く分かるし議論ができる。ところが大学院の博士課程になると、途端に、それぞれの専門の話をされても、ちんぷんかんぷんの状態になってしまう。この状態を何とか打破して、異分野でも自由に意見交換できないかということで、彼は物理学科の友人と一緒に、大学院生による異分野交流会「自然科学縦横無尽」というのを作ったんですね。最初は、生物と物理の大学院生が始めたんですが、そのうち工学部も巻き込んでセミナーや講演会を行ったりして、その活動が少しずつ全国的に広がっていったという経緯があります。ということで、「新入生にメッセージと」いうことであれば、こういう数学科、物理学科という学科の枠あるいは理学部、工学部という学部の枠を超えての交流に意識を向けてほしいと思います。私達も何かしないといけないということで、4年前から始めている事があります。私の専門は植物科学ですが、農学部にも植物の研究者がおられます。両者をつなぐ部局横断型交流会、通称、植物科学の縦横無尽の会と呼んでいますが、これを若い先生方が中心になって始めてくれました。普段会うことのない学生さんや先生方が集まって意見交換できるということで、結構人気の会になっています。京大では、理学部と農学部が同じ北部キャンパスにあって、物理的に近いんですよね。この近さっていうのは魅力です。うちの研究室で学位を取ってから、農学研究科のポスドクになったり、またその逆があったりで、人的交流も盛んになってきています。これは一例ですが、学生さんにも交流を意識しながら、自身のネットワークを作ってもらえればいいかなと考えています。  次に私自身の専門の植物分子細胞生物学の研究の話です。植物も動物と同様に細胞からできています。植物の細胞は、一個一個が厚い壁に囲まれていますので、残念ながら先ほどの高橋先生のお話に出てきた動物細胞のように抱き合ったり、喧嘩したりはできないです。動物細胞の場合は、病原体に感染したら免疫細胞に助けを求めることができる。つまり他力本願的。これに対して、植物細胞は壁に囲まれているので、感染したら自分で何とか対処しないといけない。ウイルスに感染したからといって他の細胞に助けてーというわけにはいきません。だから植物細胞は自力本願的。いつやって来るか分からない外敵に対して、全ての細胞はスタンバイ状態です。私達は、このような細胞レベルでの生体防御のしくみを研究しています。植物細胞の面白さは、何といっても、活発な細胞内運動です。植物そのものは動かないんだけれども、細胞の中を見ると、すごい勢いで動き回ってるんですね。この現象は、原形質流動といいますが、250年くらい前から知られています。ただそのしくみは長年の謎になっています。私達はこれに挑戦しようとしています。最後にもう一つお話しします。生物の体の主要元素は炭素ですが、動物は、何か食べないと生きていけない従属栄養生物で、一方、植物は大気中のCO2を取り込んで体を作ることができる独立栄養生物です。つまり、植物こそが、炭素を生物界に取り込んでいるわけです。その取り込み口、つまり、ガスをどこから取り込んでるかっていうと、葉っぱにある気孔っていう小さな孔で、2つの細胞がペアになってその間にできる孔です。先ほども、高橋先生のお話で、分化という話が出ましたが、気孔も細胞の分化によって形成されます。最近、私達はその気孔の数を増やす因子を見つました。で、気孔の数が増えると、どんないいことがあると思います?気孔の数が増えると、CO2がたくさん吸い込めるので、…

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西村いくこ 教授

國府:CO2削減?

西村:そうそう。私たちは理学部の人間なので、普段から応用研究という意識はなかったんですが、作物の生産性の向上にいいじゃないかなどと言われ注目されるようになると考えが少し変わってきました。これまでは、研究成果はいつか何かの役に立つだろうと言うだけで実際に役にたつかどうか調べようとはしてきませんでしたが、それでは駄目だと思うようになってきた。そこで、気孔の数が増えたら本当に光合成の能力が上がって、CO2をたくさん吸うのかというのを農学部の方に来てもらって共同研究することにしました。先にお話しした異分野交流にもつながるんですが、異分野の方にも興味をもってもらえるところまでやってから渡していかないといけないと思うようになってきました。異分野の研究者どうしがお互いに歩み寄れるようにしたいということを常に考えています。

三輪:はい、ありがとうございました。それでは相談室の山本さん、お願いします。簡単に自己紹介的な、今みたいな話をどうそ。

 


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