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1回目

【初めての座談会 編】
記念すべき第1回の座談会は2013年2月28日の18時頃から行われ、高橋淑子教授(動物学教室)、長田哲也教授(宇宙物理学教室)、西村いくこ教授(植物学教室)、國府寛司教授(数学教室)が集まって下さいました。全3回を通して参加する、司会の三輪哲二教授、社会交流室の常見俊直講師(写真担当)、相談室の山本(編集・文担当)も加わって、お弁当を食べながらわいわい楽しく話をしました。最後に「話してて学生のことをつい忘れちゃいました」という言葉が飛び出すほど盛り上がった第1回座談会、どうぞお見逃しなく!


 

三輪:今日は、どうもお忙しい中、どうもありがとうございます。今日の話は編集して、ネットに載せようと考えています。ネットといえば、数年前に作られた「わくわく理学」というのがあって、今でもそれをクリックするとけっこう大量なコンテンツが載っています。「わくわく理学」は主に高校生用だったのですが、今回の内容は、新入生ガイダンスの時に「こういうことをネットに載せるので見てください」みたいなことを言うことにして、高校生も見られるような形で載せようという風に思っています。


 

國府:数学の國府です。よろしくお願いします。私は数学の中でも力学系理論というのをやっています。力学系理論というのは、あんまり数学っぽく聞こえないかもしれないんですが、元々は物理や天体力学に関係してできてきた数学の理論です。力学系というのは、時間とともに変化していくようなシステムを数学的に定義したもので、変化の仕方が微分方程式であるとか、高校生で言う漸化式、差分方程式で記述されるようなシステムや現象について数学的に研究するということをやっています。それには色々アプローチの仕方があるんですが、私が今、特にやっているのは、計算機を使った数値計算とトポロジーあるいは位相幾何学と呼ばれる数学分野の方法を組み合わせて、力学系の大域的構造、つまり解全体の様子を調べるというような研究です。力学系の研究には色々なアプローチがあり、純粋数学的に非常に高く評価される結果もいっぱいあるんですが、私はいま数学と諸分野の連携を目指すクレストという数学の応用的な研究プロジェクトをやっていて、生命科学の方や、もちろん物理の方、そして工学の方とかと議論をしながら研究をしています。

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國府 寛司 教授

國府 寛司 教授

三輪:何か、具体的な話はありますか?

國府:具体的というのは、研究について?

三輪:ええ。

國府:力学系の中にはいわゆるカオスと言われる、初期条件がちょっと違うと、未来の状態の予測が非常に困難であるようなシステムがあります。力学系っていうのは決定論的な法則に従っているので、初期条件を一つ決めたら、そこから先のシステムの変化の仕方っていうのは、ただ1つに完全に決まるはずなんだけれども、カオスを示す力学系では、初期値が少し変わった時に、その差が非常に急速に拡大するので,将来の予測が困難になるという、そういう本質的な予測不可能性のようなものを持っています。そのようなシステムについて、それが数学的にはどういうふうに理解されるのかっていうことが、今の力学系の大きな研究の流れの1つで、色々な立場から研究されてるんですが、私は、以前はそういうようなことに興味を持って研究してたんですが、最近はそういうものも含めて、もっと大雑把に力学系の全体の構造を調べるような研究に移っています。力学系を大きく見ると、たとえば周期的であるとか自分自身の近くに戻ってくるような回帰的な振る舞いを示す部分がいくつかあって、それらの間が勾配的につながっているような形に大まかにでも分解するための方法を、計算機を援用した数学的な方法として整備しようとしています。それができると、例えば回帰的な部分は周期的であるとか、カオス的であるとか、個々に調べていけるわけです。それで,もしその部分が不安定で、その近くから出発する解は、もっと違ったところに繋がっているというようにして、力学系の構造が大雑把にでも理解できるだろうというわけです。それの応用として、いくつかのことをやってるんですが。例えば、人や動物の歩行運動を、そのような見方で捉えられないかと考えています。普通に安定して歩いている歩行っていうのは、安定な周期運動なんですが、それがどれぐらいに安定かっていうのは、それの安定領域って呼ばれる、その中に初期値をとったら、そこから出発する解がその安定周期運動に吸い込まれていくような部分がどれくらい大きいかに関係すると思います。だったら、その限界っていうのは何かっていうと、そこのところを境にして、その外に行くともうどっか違うところにいってしまうので、限界のところには、何か安定な周期運動とは違った別の不安定な分水嶺のようなものがあって、それを境にして歩行運動の安定領域ができているということになります。じゃあ、その境界のところには、一体何があるんだろうか、とか、歩き方が変わったりする時には、安定領域やその境界はどういうふうに関係するのかとか、そういう歩行運動の力学系の解の構造を、そういうふうな見方で見ることによって、何か新しいことができないかなというのを、物理や機械工学の人達と一緒にやっています。

三輪:酔っぱらいの歩き方とかですか。

國府:酔っぱらいの歩き方はちょっとわからないですけど、例えば、歩行疾患の人の歩き方っていうのは、普通の人の歩行と解の構造が違うかもしれないな、とかいう話はありますね。そういうことを調べるのはまだ先の話なんですけど、そういうのを解析するための基礎となる方法をみんなで考えているところです。

西村:生物から見ると、数学ってすごくスタティックなものかなというイメージだったんですけど、だいぶ違うんですね。

國府:はい。ダイナミカルシステムっていうくらいだから。

三輪:それはそう。はい、國府先生ありがとうございました。数学では、反時計回りが決まりなので、次は高橋先生、お願いします。


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