常盤欣文 本研究科物理学・宇宙物理学専攻特定研究員(現・アウグスブルク大学研究員)、笠原裕一 同准教授、松田祐司 同教授、竹中崇了 東京大学博士課程学生、水上雄太 同助教、芝内孝禎 同教授、橘高俊一郎 同助教、榊原俊郎 同教授らの研究グループは、英ブリストル大学、仏エコール・ポリテクニーク、独マックスプランク研究所と共同で、重い電子系(電子間の相互作用が非常に強く、金属的な電気伝導を示すにも関わらず、伝導電子の有効質量が自由電子の質量に比べて数百倍から千倍も「重く」なる物質群)超伝導体CeCu2Si2(Ce:セリウム、Cu:銅、Si:シリコン)における超伝導電子の電子状態を明らかにしました。

 

本研究成果は、2017年6月23日付けで米国の科学誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

 今回の研究対象としたCeCu2Si2は、銅酸化物や鉄系高温超伝導体などの研究を開拓する契機ともなった、超伝導研究の歴史上でも重要な物質です。本研究では、CeCu2Si2において約40年来信じられてきた定説を覆す様々な実験的証拠が得られました。この結果は、高温超伝導体を含む電子同士の相互作用が強い物質系における超伝導のメカニズムを理解する上で、新たな指針を与えると期待されます。

本研究成果のポイント

  • 非従来型超伝導の先駆け物質である重い電子系超伝導体CeCu2Si2において、超伝導電子の電子状態は従来型の超伝導体で共通しているs波型ではなく、銅酸化物高温超伝導体と同じd波型であると長年信じられてきた。
  • 今回、CeCu2Si2の超伝導ギャップ(超伝導電子ペアの結合の強さ)構造を決定するとともに、不純物に対して超伝導状態が安定的であることを初めて示し、超伝導電子の電子状態がd波型ではなくs波型であることを明らかにした。
  • この電子状態は、今まで考えられていた磁気的機構で実現する超伝導とは相反するものであり、新たな超伝導の発現機構を考慮する必要性を意味している。
 

概要

近年、電子同士の相互作用が強い物質群における超伝導体、いわゆる非従来型超伝導体において、高温超伝導を含む新奇な超伝導状態が数多く発見されており、その発現機構の解明は近年の固体物理学における最重要課題の一つとなっています。1979年に発見されたCeCu2Si2は、非従来型超伝導体の先駆け的物質で、1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体や2006年に発見された鉄系超伝導体と多くの共通点を示す、超伝導研究の鍵となる物質です。CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態は、銅酸化物高温超伝導体と同じd波型であると信じられてきました。

 

本研究グループは、超伝導ギャップ構造を決定するとともに、不純物効果(不純物に対する超伝導状態の変化)を詳細に調査することにより、CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態がd波型ではなくs波型であることを明らかにしました。これは、重い電子系超伝導体では磁気ゆらぎに基づいて超伝導が実現する、という広く信じられている定説を覆し、磁気ゆらぎとは別の新たな機構が関与することを示唆しています。

図:縦軸を超伝導転移温度の抑制割合、横軸を不純物が超伝導電子ペアを「壊す」強さを表すパラメータとしたときの図。CeCu2Si2では他の新奇な超伝導体と比べて超伝導転移温度が抑制されにくいこと、つまり不純物によって超伝導電子が壊されにくいことを示している。
 

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