物理学・宇宙物理学専攻の田家 慎太郎氏(特定研究員)が凝縮系科学賞を受賞し、12月4日に、第14回 物性科学領域横断研究会 (領域合同研究会)の中で、表彰式がオンライン形式で、行われました。

 この賞は、凝縮系科学に従事する優れた若手研究者を奨励することを目的に、青山学院大学(現 岡山大学特任教授)の秋光純教授と東京理科大学の福山秀敏教授により2006年に創設された賞で、物理・化学・材料科学にわたる、広い意味での凝縮系科学の研究に従事する若い研究者(博士学位取得後10年以内の者)の中から、顕著な業績をあげた者に与えられます。
 

研究業績成果の概要

受賞対象となった研究は「イッテルビウム冷却原子を用いた凝縮系物理の量子シミュレーション」です。量子シミュレーションとは、古典計算機で解くことのできない量子多体系についての数学的モデルを、人工的に用意した制御性の高い量子系を用いて模倣し、新たな理解を目指す研究手法のことです。これによって、ハバードモデルのような重要な物理を含んでいながら厳密な計算が難しい理論モデルを、様々なパラメータを制御しながら詳細に調べることが可能になると期待されています。

田家慎太郎氏は、光格子中の冷却原子におけるスピンと軌道の自由度に着目して独自の研究を行ってきました。まず、同氏は、SU(6)対称な高いスピン自由度を持つ173Yb原子を冷却、光格子に導入し、2重占有数を評価することでモット絶縁体の形成を示唆する圧縮率の低減や電荷励起ギャップの存在を観測しました。また、要求される低温の実現には光格子への導入でエントロピーを担うスピン自由度がSU(2)に比べてSU(6)で増強されていることが重要な寄与を果たしてしていることを示しました。同氏はまた、多色の光格子を組み合わせることで光リープ格子を設計し、ボース凝縮体の位相を操作して平坦バンドへの励起を行うことによって、リープ格子のバンド構造の特性から期待されるダイナミクスを観測することに成功しました。さらに、平坦バンド上の固有状態と量子3準位系のアナロジーから着想し、粒子が中間地点を経由せずに空間的に離れた地点間を移動する空間断熱移送という量子現象の実現に成功しました。

これらの成果における、同氏ならではの独創的な視点と高度な技術力、今後の量子シミュレーション研究への高い波及効果が評価され、今回の受賞となりました。
 

研究者コメント

大学院生時代から行ってきた研究が実を結び、このような賞を頂けることとなり大変喜ばしく思っております。この成果は私一人ではなく、これまでに共同で研究してきたメンバーの寄与があって初めて得られたものであり、ここに感謝したいと思います。この研究テーマはまだ進行途上であり、この後5年、10年の発展で真価が問われると考えています。量子シミュレーションの一分野として確立すべく、引き続き研究をすすめます。
 

第15回凝縮系科学賞 表彰式・記念講演

https://cmsp.phys.s.u-tokyo.ac.jp/2020/12/04/award-2020/