西村 理沙

 

人体は数十兆個の細胞でできています。それらは全て、一個の受精卵が分裂してできたものなので、どの細胞も持っている遺伝子は同じです。ではなぜ、ある細胞は皮膚になり、別の細胞は胃や腸になるのでしょうか。

 

ひとつの細胞が持つ遺伝子は、体のあらゆる部位になれる情報を含んでいます。皮膚になる細胞は皮膚になる遺伝子だけを働かせ、他の部分になるための遺伝子は使われないように封をしてしまいます。受精卵から分化する過程で、それぞれの細胞がタイミングよく環境に合わせて、使わない遺伝子を封じ、必要な遺伝子は働かせ、皮膚は皮膚に、胃は胃になるのです。

 

このように、同じ遺伝子でもその働き方によって細胞が変化することを、エピジェネティクスといいます。たとえば双子は同じ遺伝子を持つのに、性格や罹る病気が違います。これも遺伝子の働き方による違いであり、エピジェネティクスの例です。

 

エピジェネティクスによる変化は、遺伝子を書き換える進化よりも素早く、環境に応じることができます。遺伝子が書き換わるには、突然変異でたまたま都合よく書き換えが起こるのを待たないといけないからです。一方で、遺伝子は都合よく書き換わったら子どもへ受け継がれます。エピジェネティクスによる変化は、遺伝子に情報が書かれないので、次世代へは受け継がれないと考えられてきました。

 

しかし近年、エピジェネティクスの変化が次世代、次々世代に遺伝することが分かってきました。遺伝病や生活習慣病もエピジェネティクスと深い関わりがあり、治療の新たなアプローチとしても注目されています。