小長谷 達郎

 

薬局を訪れると、いかにもノロウィルスに効きそうな名前の酸性エタノール系の消毒スプレーが販売されていることに気付く。ところが、ボトルをみても「ノロウィルスに効果がある」という記述はどこにもなかった。これは、人工培養の難しいノロウィルスでは実験ができないためかもしれない。ただ、酸性エタノールがノロウィルスに近縁なウィルスに効果を示すのは間違いないようだ。

 

そもそもノロウィルスは、食中毒を引き起こすウィルスの代表格で、牡蠣などの二枚貝から感染する。しかし、患者の嘔吐物からも感染が広がるため、感染拡大を防ぐには、トイレや衣服の消毒が不可欠であることは周知の事実だ。ただし、ノロウィルスにはエタノールが効かないのが通説だった。

 

近年の研究により、エタノールに添加物を加えて酸性にすると、ノロウィルスに近縁なネコカリシウィルスを不活化できることがわかった。ネコカリシウィルスは人工培養できないノロウィルスの代わりによく実験に使われるウィルスなので、ノロウィルスにも同様の効果があると考えられているのだ。

 

以前はノロウィルスの消毒に塩素系の漂白剤を使っていたので、衣服の色落ちなどが問題になっていた。その点、酸性エタノールは色落ちを起こしにくいし、人体への影響も小さく、水もいらない便利なものだ。しかし、本当のノロウィルスに対する薬効は調べられていないし、添加物を加えたエタノールがネコカリシウィルスを不活化するメカニズムも解明されない。消毒スプレーにはまだまだ進化の余地があるといえそうだ。