西村 理沙

 

DNA を使った検査はとても身近なものとして広く普及しています。犯罪捜査に使われるDNA 鑑定、インフルエンザや性感染症の検査、遺伝病の診断、食品の安全性検査、ミイラの調査など、これらにはすべてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法というものが用いられています。

 

DNA には遺伝情報が文字の羅列のように保存されていて、それを子孫に受け継がせるために、コピーしやすい形になっています。PCR 法は、調べたい文字列を指定して、その部分だけをたくさんコピーすることで、必要な文字列だけの量を増やして見やすくすることができる手法です。

 

DNA 鑑定では、ひとりのヒトが持つおよそ30 億文字のDNA を比較するのは大変なので、PCR 法で一人一人が違う文字列を持っている数十~数百文字の部分だけを分析して、個人を推定します。また、見たいDNA を増やしてくれるので、微量の形跡からでもDNA を分析でき、犯罪捜査や浮気調査に役立っています。

 

PCR 法を用いて、ウイルス感染の検査もされています。ウイルスのDNA だけが増えるように設定し、被検者の尿や血液をPCR にかけるのです。感染していた場合はウイルスのDNA が増えますが、感染していないとウイルスのDNA は存在しないので何も検出されません。

 

PCR 法は、1983 年にアメリカのベンチャー企業の研究員であるキャリー・マリスが、恋人とのドライブデート中に思いつきました。その後、企業で実用化され、検出の速さ、費用の安さから、30 年の間に急速に広まりました。

 

研究の分野においても、遺伝子操作などにPCR 法はよく使われています。現在ではDNA の量を精密に測れるような改良もされていて、医療や研究に利用されています。