今年度は、11月21日(月)に北部総合教育研究棟の益川ホール、展示ホールおよび小林・益川記念室を使って学術講演会、研究交流会の二部構成で開催されました。昨年度に続き京大オリジナル株式会社との共催での実施でした。新型コロナウイルスの主流が一般の人に対して重症化リスクが低いオミクロン株に移行し、withコロナに向けて感染防止対策が見直されたことから、3年ぶりに対面での開催となりました。研究交流会では、新しい試みとして学位を取得して企業で活躍されているOB、OGの方3名にお話を伺う企画も設けられました。

従来、サイエンス俱楽部デイは寄附という形で本研究科を支援してくださっている方々に参加していただき、学生、教職員との交流を深める場でした。昨年度からは、企業や国立の研究機関の方々にも参加してもらい、学生及び若手研究者がそれらの方々との意見交換等の交流を通して自分の進路・キャリアパスを考える機会となることを期待した企画となっています。また、令和2年度下期から国策として博士課程学生の支援事業「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」が始まり、その中で博士課程学生のキャリア支援が求められていましたので、サイエンス倶楽部デイはその要請に応える位置づけにもなっています。

学外から22名、理学研究科以外の学内から8名、理学研究科からポスター発表をした学生46名を含め、65名の参加がありました。


 

画像
1
素粒子の世界を分かり易く語る橋本 幸士教授
画像
2
少年時代の夢をかなえた野口 高明教授

学術講演会

橋本幸士教授(物理学・宇宙物理学専攻)と野口高明教授(地球惑星科学専攻)による、それぞれ45分の学術講演が益川ホールで行われました。

橋本教授の講演「宇宙を支配する数式」では、最初に何やら難しげな式が示され、各項が実験で確認されノーベル賞受賞対象となった研究の成果であり、様々な素粒子の運動方程式であることが説明されました。引き続いて現在の素粒子研究での作業仮説として超ひも理論がとりあげられ、ひもの運動方程式からマックスウェルの方程式やアインシュタインの方程式を導くことが出来ることが紹介されました。参加者は橋本教授のわかり易い説明に、素粒子研究の世界に誘われたひと時でした。

野口教授の演題は「地球外からサンプルを持ち帰る:リターンサンプルのサイエンス」で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙探索事業に携わった経験が紹介されました。実際に小惑星からサンプルを持ち帰って精密分析を行うことで、太陽光の反射を分光分析する従来の研究からは予想できなかった多くの成果が得られました。数々のエピソードと鮮明な画像を交えながら、困難を乗り越えて次々と新しい知見を得ていく物語に、参加者は思わず引き込まれました。野口教授の研究の原点は、少年時代に読んだアポロ計画にあるとのこと、少年時代の夢をかなえ生き生きと語る野口教授の姿に、参加者も思わず笑みがこぼれました。
 

 
時が経つのも忘れて語り合いました

研究交流会

研究発表者として教室推薦の12名、今年度第1回の公募を行った銀楓ファンド研究助成採択者、科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業の情報・AI分野の新規採択者に加え、その他博士課程の学生のほかポスドクも含め広く参加を募りました。その結果、49名の学生の応募がありました。サイエンス倶楽部デイに先立ってポスターを理学研究科・理学部ウェブに掲載しましたところ、11月2日から12月31日までに全体で2,489件のアクセスがありました。そのうち学外からのアクセスは1,880件でした。

ポスターセッションは展示ホールおよび小林・益川記念室を使い、ポスターセッション1とポスターセッション2の2部に分けて行われました。それぞれ3分間トークを行い、その後自由に議論する形を計画しましたが、後半のセッションではプログラム進行の遅延のために、自由議論の時間が取れなくなるという運営側の不手際がありました。ポスターセッション2に割り振られた学生の皆さんに改めてお詫びいたします。

研究交流会は産業界や国立研究機関の方々との交流もさることながら、研究分野を異にする学生間の対話の場として貴重な機会でもありますので、より有意義に活用してもらえるよう、アンケート結果を参考にしながらよりよい企画にしていきたいと考えています。

 

 

 

 
高嶋 梨菜さんと高嶋さんを紹介する栁瀨 陽一教授
 
植野 正嗣さんと植野さんを紹介する谷村 吉隆教授
 
高山 侑也さんと高山さんを紹介する加藤 毅教授

OB、OGによる講演

ポスターセッション1と2の間に60分の時間をとり、高嶋 梨菜さん(物理学・宇宙物理学専攻:2018年度学位取得、キオクシア株式会社 メモリ技術研究所勤務)、植野 正嗣さん(化学専攻:2015年度単位認定退学、2022年論文博士、HPCシステムズ株式会社勤務)、高山 侑也さん(数学・数理解析専攻:2015年度学位取得、株式会社ニコン勤務)の3名による講演が益川ホールで行われました。

講演では、大学での研究内容、そのときやりたいと考えたこと、また、悩んだこと、そして現在の業務について紹介されました。参加した学生からは質問が数多く出され、産業界での生活や産業界を選択した経緯への関心の高さがうかがえました。また、講演に先立って行われた、学生時代の指導教員あるいは研究で連携していた教員による講演者紹介に、会場は和やかな雰囲気に包まれました。

理学研究科銀楓賞

昨年度に「理学研究科銀楓賞(ぎんぷうしょう)」を創設し、理学分野における顕著な研究成果を挙げ、理学研究科サイエンス倶楽部デイにおいて、理学に関心を持つ方々に向けて優れた研究発表を行った博士後期課程学生を顕彰することになりました。研究交流会参加者の投票結果をもとに、今回は以下の9名に授与されました。

金城 克樹さん  (物理学・宇宙物理学専攻 物理学第一分野)

 「極低温高磁場超精密角度回転核磁気共鳴法の確立とその応用」 

今村 春香さん  (地球惑星科学専攻 地球物理学分野)

 「海洋水面波による混合についての実験的研究」

小柳 翔輝さん  (化学専攻)

 「数値計算に基づく量子熱力学の研究:量子カルノーサイクル」 

武田 遼太さん  (化学専攻)

 「緑色蛍光タンパク質の光反応中間状態についての精密構造解析」

矢ヶ崎 怜さん  (生物科学専攻 動物学系)

 「同調現象から蠕動(ぜんどう)運動のメカニズムを探る」

松田 凌さん   (数学・数理解析専攻 数学系)

 「無限次元タイヒミュラー空間の性質」 

奥田 尚さん   (数学・数理解析専攻 数理解析系)

 「温度依存高粘性流体の熱対流構造」 

堀 敬一朗さん  (物理学・宇宙物理学専攻 物理学第二分野)

 「ホログラフィックQCDを用いたバリオンの振動励起の研究」 

三田 歩さん  (生物科学専攻 霊長類学・野生動物系)

 「チンパンジーおよびシャチにおける明るさ対比効果に関する研究」 

 

おめでとうございます。
 

(令和3年度サイエンス倶楽部デイ事務局 柏﨑 安男)

 

サイエンス倶楽部について

本研究科では平成27年6月に理学研究科寄付金の基金を設立するとともに、後援者・同窓生・学生・教職員を構成員とする京都大学サイエンス倶楽部を立ち上げました。サイエンス倶楽部デイは、「理学の新しい芽を育む」をテーマに、本研究科の活動状況をサポートして頂く方々に広く知っていただくとともに、構成員相互の交流と親睦を図り、連携を深めることを目的として開催しています。