生物科学専攻(生物物理学系)・教授 西山 朋子

 
 

 縁あって2022年12月より京都大学理学部に着任しました。私は現在、染色体構造を一分子レベルから理解し、染色体構造構築異常が遺伝性疾患を引き起こすメカニズムを明らかにする研究を行っています。自然と触れ合うことの多い幼少期を過ごしたせいか、自然科学への興味が芽生え、大学在学中に生命科学の世界に足を踏み入れました。大学院では、細胞の分裂が停止したり、停止が解除されたりするしくみをカエルの卵母細胞で研究していました。退屈そうに聞こえるかもしれませんが、このしくみが、我々ヒトを含む多くの脊椎動物で受精の可否を決定する重要な引き金となっています。細胞分裂周期の制御は、最終的にはその生物がもっているゲノムを如何にして次世代に引き渡すか、という染色体分配制御の問題に直結します。そこで私は、ゲノムの実体であり、運び屋でもある染色体の研究に足を踏み入れることにしました。染色体研究の分野で当時世界をリードされていた柳田充弘先生の理学部1号館研究室跡地に、将来自分の研究室を構えることになろうとは、夢にも思っていませんでしたので、身の引き締まる思いです。

 私が染色体研究を始めて15年ほどになりますが、染色体研究はここ10年、技術的な革新もあり、研究手法が劇的な変化を遂げています。DNA配列の最小構成単位である塩基のレベルで染色体の高次構造が明らかになりつつあり、「手にとるように」染色体の構造を見ることができる日も間近に迫っています。私たちは、そんな「染色体の姿を見たい!知りたい!」というモチベーションから、分子レベルで染色体の構造や機能を可視化できる系を開発し、染色体の生きた姿をリアルタイムでとらえようとしています。ゲノム情報は究極の個人情報であり、その扱いには慎重な議論が必要ですが、その構造情報が医療目的で有効活用される未来を思い描いています。