物理学・宇宙物理学専攻(宇宙物理学分野)・教授 嶺重 慎
2022年5月12日午後10時7分(日本時間)、天の川銀河中心のブラックホールの画像(正確にはブラックホールによる「影」の画像)が全世界同時に公開されました。ブラックホール撮像天文学の時代がより本格的に始まったことを象徴する出来事でした。
日本でのプレスリリースにおいてトップをきって壇上に上がったのは、京大理学研究科(宇宙物理学教室)出身の森山小太郎氏。彼は大学院時代から、ブラックホールに落ちこんでいくガスの運動と、それが生み出す光(電磁波)について研究をしており、それで学位を取得したのでした。その後、EHT(地球上各地に設置した電波望遠鏡からのデータを統合して、地球サイズの望遠鏡並の解像度を得るもの)チームに入り、米国やドイツで、画像解析チームの牽引役として活躍しています。
森山氏によりますと「解析は難渋を極めた」とのこと。データ取得から5年もかかってようやく研究(論文)発表ということからも、その難しさがおわかりいただけるでしょう。それもそのはず、今回のケースは(3年前に発表された)M87と比べて質量もサイズも3桁小さく、ガスが落ちこむ時間も3桁短くなり、画像が激しく変化していたのです。(ブラックホールの周囲のガスは、クリスマスツリーのように、あちこちぴかぴか光りながら落ちていくというのが森山理論です。)ついにその困難を乗り越え、発表に至ることができました。
実は彼、大学院入試の面接で「何をやりたいか」と聞かれて、「タイムマシンをつくりたい」と述べたのでありました。それで私は「おもしろい、やってみなはれ! でもいきなりタイムマシンは難しそうだから、とりあえずブラックホールの研究をしてみない?」(注:どちらも時空の歪みです)と提案しましたら、彼は「やります!」と即答して、今に至っています。さて、タイムマシンの研究は進んでいるでしょうか? 今度会ったら、そちらの話も伺うのが楽しみです。
図: 天の川銀河中心のブラックホール画像(クレジット:EHT collaboration)