平賀 椋太

 

油田や海底の火山など、過酷な環境で生きる微生物を採集して、私たちの生活の役に立つ性質を持つものを報告するような研究があります。京都大学の名誉教授で、現在は立命館大学に所属している今中忠行教授はこうした探索からさまざまな新しいことを発見しています。

 

今中教授らが静岡県の相良油田から分離した菌オレモナス・サガラネンシスは、ふだん酸素の少ない環境で、石油の成分を分解して栄養にしています。ほかの生物はあまり分解しない石油を分解しているということだけでも目立った特徴で、環境を汚染しない形で石油を処理する技術につながるかもしれません。今中教授らはさらに、二酸化炭素や水素を吹き込む変わった条件のもとでは、菌が体の中に油滴をつくることから、石油と同じような組成の物質を合成する能力を持つとして、相良油田の石油を作ったのはこの菌ではないか、と主張しています。

 

ほかにも水温が100℃を超えるような海底火山から見つけて、サーモコッカス・コダカラエンシスと名付けた好熱菌の仲間は、熱に強い生体物質を作っており、たとえばPCR という技術で一定の地位を築いています。

 

PCR とは、酵素を使って、DNA の狙った一部だけを増やしてDNA 鑑定などで分析できるようにする技術です。増やす過程で何度も、95℃というふつうのDNA を増やす酵素が壊れてしまうような温度まで上げる必要があるため、こうした特別な菌からとってくる必要があるのです。

 

こうした過酷な環境に適応した生き物を探す、といったことからも、私たちの生活は豊かになりうるのです。