藤田 遼

 

独創的なアイデアによって現代数学に貢献した日本人として、代数解析学の創始者、佐藤幹夫を挙げる数学者は多いでしょう。  数学で「~を求めよ」という問題を解くとき、未知数にxやyといった文字を使って方程式を作るという方法があります。方程式を作るときには、足し算と掛け算という2種類の演算が必要です。この足し算と掛け算をもつ対象、すなわち「代数」について研究する領域を「代数学」と呼びます。

 

ところで、物理を学んだことがある人はニュートンの運動方程式を知っていると思います。ニュートンの運動方程式も「方程式」と呼ばれますが、これは足し算と掛け算だけではなく、加速度つまり未知関数の微分を使った「微分方程式」であり、足し算と掛け算だけで作る代数方程式とは区別されます。微分方程式は微分積分を基礎とする「解析学」の研究対象です。

 

一見すると離れて見える「代数学」と「解析学」ですが、佐藤幹夫は解析学の研究に代数学の手法を用いる「代数解析学」を創始しました。その一例に「D加群の理論」があります。例えば、「関数fを微分する」ということを、「記号d/dtと記号fを掛け算する」と形式的に見なすことで、微分方程式を代数方程式と同じように捉えます。D加群の理論は、この素朴なアイデアを数学的に正当化し、代数学の手法を用いて微分方程式を研究するものです。

 

D加群の理論をはじめとする代数解析学は20世紀後半に大きく発展し、多くの成果をもたらしました。