小林 卓也
生態学とは、生物の分布と数、つまり「どこにどれだけいるか」を決める要因を研究する分野です。生物を資源として利用する人類にとっては、狩猟採集の時代から、生物の分布と数を知ることは重要な問題でした。さらに現代では環境破壊などにより、多くの生物種が急速に失われつつあり、生物多様性の保全が急務となっていいます。しかし、そのためにはまず、生態系が維持されるしくみ、つまり生物の分布と数を決める要因を理解する必要があります。
生態学では、生物の分布と数のありように対して、気温・降水量・地質などの環境、他の生物との相互作用など様々な要因が検証されています。例えば、私は要因の一つとして生物の移動に注目し、昆虫を対象とした研究をしています。生息地間の移動は、「どこにどれだけいるか」を決める重要な過程ですが、直接観察することは困難な場合がほとんどです。そこで私は昆虫の縁戚関係を追える目印となる遺伝情報を利用しています。例えば、離れた生息地の間で山や川などが移動の障壁となる場合、それぞれの場所にいる個体同士の類縁関係は遠くなると考えられます。直接観察できなくても、生息地間での移動の頻度をある程度推定することができるのです。
私自身の研究はほんの一部ですが、このように生物の分布と数を形作るメカニズムを調べ、自然界に対する理解を深めていくのが生態学の研究です。それは、人類が生物資源を「上手に」消費するためのヒントを得ることにも繋がります。