[SG2020-1]データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス


図:2021年2月10日 理研・京大データ同化研究会

 

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活動報告

活動目的・内容

 近年発展のめざましい数理統計学分野の1つに「データ同化」がある.データ同化は,現象の理論数理モデルのシミュレーション結果に本質的に含まれる予測誤差を観測データによって補正し,その予測力を向上させる手法である.例えば現在の数値天気予報における予測向上の多くがデータ同化手法によってもたらされた.一方,理学研究の各分野においては実験・観測によるデータ研究と理論モデルによる研究がその両輪となっており,現代の数理統計的手法によって,精密化・大規模化するデータを活用して理論モデルと融合する新しいスタイルの研究が可能になりつつある.また,企業などにおいても長年蓄積された技術の理論モデルと計測データとの高度融合が望まれており,そのような開発を担う高度な職業人の輩出も大学にもとめられている.

 このような状況に対して,理学における様々なデータと数理モデルを融合するデータ同化の基礎と応用について講義と実習およびその後のフォローアップのセミナーやチュートリアルを軸とした年間のコースを実施し,データ同化を用いた各理学分野の新研究の創出,理学研究科の修士/博士学生の新しいキャリアパス構築を目指す.今年度はデータ同化の講義がコロナウィルス感染拡大の影響で不開講になったため,オンラインでのSGを実施するものとし,登録者に対しては定期的なデータ同化に関する研究セミナーへ参加いただき先端の研究に触れていただく予定である.また,必要に応じて関連書籍・文献の輪読やデータ同化研究会を開催することも検討している.

 

活動成果・自己評価

活動成果:令和2年度の活動として,9~11月の間,理研データ同化研究チームが主催する「データ同化セミナー」に参加して,最先端のデータ同化研究に触れる活動を行った.また、10月~2月には希望者を募って低次元なカオス力学系を用いたデータ同化システムを各自で実装・実験し、興味をもつ独自課題に取り組んだ.毎週水曜日にオンライン会合を行い,課題の進捗を報告した.また,2021年2月10日にオンライン開催した理研・京大データ同化研究会において,2名の学生が個別課題への取り組み結果を報告した.

自己評価:例年は講義「データ同化A・B」を開講して講義型SGとして活動を行っているが,本年度は不開講としたため,個別に課題に取り組み,2名が結果をまとめて研究会での発表に至った.例年と同様,参加者の意欲は高く,限られた時間で高い学習効果を得られた.

 

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
坂上 貴之(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
宮崎 真一 地球惑星科学専攻   教授
三好 建正 理化学研究所 連携教授
大塚 成徳 理化学研究所 連携准教授
その他:学部生4名・院生(修士)2名、院生(博士)1名
 

[SG2020-2]カイメン骨片骨格形成の数理モデル構築

活動報告

活動目的・内容

動物の中でもカイメン動物は種ごとに異なる、非常に多種多様な形態を持ち、加えて動物でありながら植物と同様、生育環境に合わせた成長による形態「表現型可塑性」を持つ。本企画では、このように柔軟に多様な形態を生み出せる仕組みを統一的に理解するための、「カイメンの骨片骨格形成数理モデル構築」に挑戦する。代表教員のグループの明らかにした「カイメン骨片骨格形成原理」を基にした数理モデル構築は、数理生物学者本多久夫博士が「数理生物学者に、つきつけられる課題」と紹介してくださったものである(CREST BIODYNAMICS News letter 第3号2015https://www.jst.go.jp/kisokcrest/project/35/pdf/CREST-Biodynamics_vol03J.pdf)。すでに、秋山正和博士(明治大学)との共同研究でフェーズフィールド法を基にした2次元の数理モデル構築Ver.1が出来ており、針状の骨片が柱状に繋がることを上手く表現出来ている一方、現実と合わないいくつかの問題点も見えてきた。本SGでは,秋山博士の協力も得て、このカイメンに関して現象とその数理モデル化に関して詳しく説明するとともに,現行の数理モデルに囚われない全く違う切り口からの数理モデル構築のアイディア自体を議論することも目的とする。

 

活動成果・自己評価

参加者は3回生がメインであったため、数理モデル構築の基礎と実際の講義に重点を置く内容に変更し、5回のオンライン講義(合計11時間)を行った。数理の基礎については、明治大学MIMS チュートリアルシリーズのうち、秋山博士の「コマンドライン操作と数値計算法入門」https://sites.google.com/view/mimspython/、及び、白石博士の「pythonによるデータの取り扱いと可視化」https://sites.google.com/view/mimspython/を本SG参加者も受講させていただいた。非常に充実した資料を用い、解説と共に各自課題に取り組む実践も含むこれらチュートリアルで基礎を習得した。続いてカイメン骨片骨格形成機構に関する実際の研究成果に関して2回の講義で学んだ上で、秋山博士により、骨片骨格形成数理モデル構築について、どの様に構築したのか、基礎から詳しく解説を受けた。
本SGの実際の参加者は4人(加えて、共同研究の関係で工学研究科4回生1人)であったが、講義途中でも分からない点を活発に質問し、全員意欲的に取り組んでいた。最後の講義の感想文にある様に、①実際の研究からどう数理モデルを発想するのか、②構築したモデルと実際との評価をどう行うのか、③構築したモデルから何が示唆できるのかといった、数理モデル構築の実際を伝える良い機会に出来たという手応えもある。コロナ感染防止の観点からオンラインと限定されていたため、実際のカイメン骨片骨格の観察や、骨片運搬のトラッキングなどの解析を体験してもらえなかった事が残念である。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
船山 典子(代表教員) 生物科学専攻 准教授
坂上 貴之 数学・数理解析学専攻 教授
秋山 正和 (協力) 明治大学・MIMS 特任准教授
川島 愛音 生物科学専攻 B3
山田 莉彩 化学専攻 B3
市岡 宏樹 生物科学専攻 B3
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 M2

その他:工学部 学部生1名参加
 


[SG2020-3]本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る


図1: 今年度のSG活動の題材


図2: トリ胚実習の様子

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活動報告

活動目的・内容

本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、発生現象を数理的に解析した研究論文として、物理的な要素(脳脊髄液による圧力)がニワトリ胚の脳の初期形態形成に与える影響に注目した論文 [1] [2] の輪読と討論をオンライン・対面のハイブリッド形式で行う。脳の初期形態形成の「実物」観察や解析実習については、代表教員らが撮影した映像を共有する予定である。これらを通して、数理と生物科学との分野横断の実例を学んでいく。

[1] “Contraction and stress-dependent growth shape the forebrain of the early chicken embryo, Garcia KE et al., J. Mech. Behav. Biomed. Mater. (2017)”

[2] “Molecular and mechanical signals determine morphogenesis of the cerebral hemispheres in the chicken embryo, Garcia KE et al., Development (2019)”
 

活動成果・自己評価

 参加学生が学部3回生2名だったため、オンラインと対面とのハイブリッド形式で、題材論文の輪読・議論を5回、トリ胚実習を1回(2日間)行った。題材論文の輪読・議論を通して、脳の初期形態形成(中空の筒構造が領域特異的な膨らみをしていく)において、脳内を満たす脳脊髄液による圧力が果たす役割について理解を深めた(図1)。トリ胚実習(図2)では、脳脊髄液の量を増減させる操作を自分たちの手で試みた。実習を通じて、中空の細ガラス針を脳に挿入する操作(脳脊髄液を減らす手法)の難しさを実感した(実習参加者4名のうち、成功者1名のみ)。また同時に、胚操作によって脳形態に影響が現れたかどうかを解析する難しさも理解できた。脳脊髄液を増やした場合も脳形態に現れる影響は小さく、題材論文で用いていた光干渉断層撮影(OCT)の重要性がよく分かった。
 今年度は後期からのSG活動だったが、オンラインと対面とを上手く組み合わせて論文輪読・議論を進められたと思う。来年度もこの活動形式を継続しつつ、参加メンバー間での活発な議論をより進めていきたい。また、今年度や昨年度のSG活動を踏まえ、来年度はトリ胚組織にかかる張力や圧力などを実際に測定する実習を行いたいと考えている。

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 SACRA特定助教
國府 寛司 数学・数理解析学専攻 教授
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
稲葉 真史 生物科学専攻 助教
平島 剛志 生命科学研究科
白眉センター
講師
市岡 宏樹 生物科学専攻 B3
加々尾 萌絵 生物科学専攻 B3

 

[SG2020-4]自然科学とランダム行列



図:考案したモデルについて、数値実験の結果の例

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活動報告

活動目的・内容

多岐にわたる応用が知られているランダム行列の理論の学習を通じて、理学部の異なる分野との共通言語を身に着け、話題や技術を共有することが目的のグループである。 基礎を共有した後、輪講形式でランダム行列のテキストの読解を進めるが、関連論文の紹介も並行して行う。
テキストや文献は参加者の興味関心に依存するが、ひとまず T. Tao の Topics in Random Matrix Theory を基礎として考えている。テキスト候補は随時加える。

 

活動成果・自己評価

全体を通して、Slack で随時情報共有を行いながら、隔週のオンラインセミナー形式で実施した。
まずは全体で用語を共有することを目的として、基礎事項の定義や確認を行った。 このためには活動目的で挙げた Topics in Random matrix theory に加えて、 測度論や確率の収束の考え方を伊藤清三「ルベーグ積分入門」などの教科書で補うことにより実施した。 昨年にこれを重点的にやりすぎた反省をもとにして、ほどほどに切り上げたつもりだが、 基礎を学びたい学生には対応できていなかったかもしれない。 こののち、各参加者の興味に合わせる形で論文や研究の紹介を行った。 紹介されたのは整数論とランダム行列(M. M. Woodらの論文)、 量子情報におけるランダム行列(B. Collins らの論文)、 および霊長類の観察に基づいて構成された行列のふるまいについての研究が紹介された。 とりわけ最後の話題については、 メンバーでいくつかモデルを考察し数値実験を行うところにまで漕ぎ着けられた。
議論の中で「普遍性」などの用語が共有されていたことは、 前半の用語共有の成果だったと言えるだろう。 全体としても、半年でできることを考えた当初の計画通りにまとめられて非常に有意義に終わったと自己評価している。 参加者数を増やすにはどうすればいいか、 増えたときにどうしていくかという部分に課題はあるが、 少数になった場合としては次につながる形で終えられたことには満足している。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
石塚 裕大(代表教員) 数学・数理解析専攻 SACRA特定助教
太田 洋輝 物理学・宇宙物理学専攻 SACRA特定助教
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 M2
下村 顕士 物理学・宇宙物理学専攻 B3

 

[SG2020-5]自然科学における統計サンプリングとモデリング:数理から実践まで

活動報告

活動目的・内容

広範な自然科学において、統計サンプリングは普遍的な計算科学手法である。本 SG では、統計サンプリングやモデリングに関わる基礎理論を学び、プログラミングやシミュレーションの実践をグループディスカッション形式で行う。基本的には、参加者が自身の興味に基づいてテーマの提案及びプログラミング・シミュレーションの実践を行い、グループディスカッションで提案内容、実施結果や実施途中での疑問点等に関して検討を行う。理論的背景の知識や計算機を用いた実践に関する様々なレベルの参加者を期待している。分野外の初学者には基礎的な分子シミュレーションや単純な統計モデルのプログラミング・シミュレーションによる知識・技術の習熟、また既に習熟度の高い学生さんには各自の興味に基づく(おもろそうな)テーマ設定の検討及び実践を行う。このように、多様で自由度の高いテーマに対するプログラミング・シミュレーションとディスカッションをグループで(わいわいと)行い、自然科学における統計サンプリングやモデリングに関する幅広い視野を養う。

活動成果・自己評価

本年度は、まず、参加学生さんによるプログラミング言語 C++ を用いたコード開発の講習会を行った。題材としては、統計サンプリングの一例として、ランジュバンダイナミクスをシミュレートするコード作成を行った。更に、ランジュバン方程式から一般化ランジュバン方程式に変換する拡張系についての理論に基づき、一般化ランジュバン方程式のシミュレーションコードの開発を行った。そのコードを用いて、化学反応ダイナミクスのシミュレーションの実践を行った。摩擦力を変化させて反応エネルギー障壁を超える時定数をシミュレーションし、凝縮系の化学反応速度に対する溶媒粘性の影響を検討した。
また、マイクロバブルの測定実験について検討を行い、その分布や時定数に関する理論及びシミュレーションの検討を行った。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
林 重彦(代表教員) 化学専攻 教授
高田 彰二 生物科学専攻 教授
小出 洋輝 生物科学専攻 M2
糀谷 暁 化学専攻 M2
松山 綾夏 化学専攻 D2
小山 糧 化学専攻 D3
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 M2
長岡 高広 数学・数理解析専攻 D3
後藤 岳 化学専攻 M1

 

[SG2020-6]Interdisciplinary Science Academy


図1: 学生講師募集案内






図2: 成果報告会フラッシュトークの資料

活動報告

活動目的・内容

このSGでは各々の参加メンバーが、自然科学の伝統的な分野を超えるような題材についてメンバー間の勉強会、外部講師による集中講義やセミナーを企画する権利*を持つ。開催された勉強会や外部セミナーの資料や参加メンバーなどの情報を、このSGグループのweb上で発表する。web上で発表する理由は、SGの外から興味をもってもらい、あわよくば”想定外に”、SGの枠を超えて意見交換が起こる可能性を期待する。このような活動を通して最終的には、各々のメンバーが自立して異なる専攻の研究者と意見交換をし、境界領域の研究を始めるきっかけとなることを目指す。具体的には、隔週の定期ゼミでメンバーが今までに論文やセミナーで遭遇した**、またこれから研究してみたい題材について論文紹介を行い、そこからどのような勉強が必要か、研究に向かうためにどのような試行をしたらいいか、など意見交換を行う。この意見交換が各々のメンバーの企画へのヒントとなるだろう。今の所不定期の勉強会の候補として、希望者がいれば、計算言語学のテキスト***を輪読することを考えている。

*:予算と部屋が割り当てられるが制限はある。詳しくはSGが始まってから相談する。
**:所属研究室ではないオープンな研究室セミナーを聞きに行って、などでもよい。
***:仮にA. Meduna et al, "Modern Language Models and Computation"をあげるが、まだ探し中。

 

活動成果・自己評価

主な活動としては、メンバーで意見交換したうえで依頼した外部講師による1時間のセミナーとその後1時間の関連話題についてフリーディスカッションを行った。合計5回の外部講師セミナーの題材としては、シングルセルのダイナミクス、大小様々な動物の群れ、合成組織まで幅広い生物学の話を聞き、主に数理との接点について意見交換を行った。セミナーで初めて交流する講師や参加者も多く、それによって偶然的に学んだことも多かった。また、大学院生に講師になってもらい各自の研究内容について短期集中講義型のセミナーを行うのと同時に参加学生にもセミナーレポートを作成してもらいweb上に掲載するという企画をした。しかしながら、学生からの応募がなく実現に至らなかった。企画自体の魅力が不十分だったかまたは企画の周知不足だったかもしれない。Macsのイベントのよりよい周知方法は今後の改善点の一つだと思う。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
太田 洋輝(代表教員) 物理学・宇宙物理学専攻 SACRA特定助教
石塚 裕大 数学・数理解析学専攻  SACRA特定助教
高瀬 悠太 生物科学専攻 SACRA特定助教
小林 俊介 数学・数理解析学専攻 SACRA特定助教

 

[SG2020-7]脳・生命の意思決定の数理


図1. SGの一コマ


図2. データ駆動生物学ワークショップの一コマ

活動報告

活動目的・内容

 令和2年度は、下記の項目を行った。本SGの特色は、オンライン輪読だけにとどまらず、新しい問題を発掘するための議論をオンラインで行う。

(1) 統計的学習理論・強化学習・自由エネルギー原理・深層学習・次元削減の講義を行った。
(2) 外部講師5名によるオンラインワークショップを開催した。

 

活動成果・自己評価

生命システムの動的な意思決定のモデリングのための基礎を習得することを目的に計8回の講義を開催した。初めの4回は、統計基礎・回帰・判別・EMアルゴリズム・状態空間モデルを講義した(担当:本田)。その知識を基礎にして、その後は、生命の意思決定に関わる強化学習や自由エネルギー原理の講義を計2回行った(担当:本田)。さらには、生命データ解析にとって有用な深層学習や次元削減に関する講義も開催した(担当:小島)。これだけの内容の講義を学生に提供できたことは、評価に値すると思っているが、教員の多忙およびオンラインでの活動のため、学生の自主性に基づく活動ができなかったことが心残りである。3月には5名の国内研究者を招聘し、データ駆動生物学ワークショップ(https://sites.google.com/view/data-driven-biology-workshop/)を開催した(下写真参照)。登録者数160名を超え、参加人数は常時70名を超えており、大変盛況であった。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
加藤 毅(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
篠本 滋 物理学・宇宙物理学専攻  准教授
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
鈴木 裕輔 生命科学研究科 助教
小島 諒介 医学研究科 特定助教
小川 正晃 医学研究科 特定准教授
加々尾 萌絵 生物科学専攻 B3
司 怜央 その他(医学部医学科) B3
中牟田 旭 理学部 B2
山田莉彩 化学専攻 B3
小池 二元 理学部理学科生物系 B4
糀谷 暁 化学専攻 M2
渡邊 絵美理 生物科学専攻 M2
澤崎 義仁 物理学・宇宙物理学専攻 B4
東 玲於 生物科学専攻 B3
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 M2
長岡 高広 数学・数理解析専攻 D3

 

[SG2020-8]理化学研究所とMACSを繋ぐパイプライン

活動報告

活動目的・内容

本SGでは,理化学研究所数理創造プログラム(以下,理研iTHEMS)を理研側窓口とし,京大MACSに参加している学生と理化学研究所に所属する数理科学者との間で相互的な研究交流を図り,強固な繋がりを築き上げることを目的とする.

理研iTHEMS(https://ithems.riken.jp/ja)は,理論科学・数学・計算科学の研究者が分野の枠を越えて基礎研究を推進する新しい国際研究拠点である.iTHEMSでは「数理」を軸とする分野横断的手法により,宇宙・物質・生命の解明や,社会における基本問題の解決が図られている.さらに,分野横断型・滞在型のスクールや,様々な分野で第一線で活躍する基礎科学研究者を招いたワークショップ,企業や社会で数理がどう使われているかを知るための産学連携レクチャーや日常的な分野交流などを通して,ブレークスルーを齎す研究土壌の開発や若手人材の育成が進められている.

今年度は,本スタディグループ参加登録学生と理研研究者との異分野交流を目的に活動を行った.具体的には,活動開始とともに理研研究者へ学生自らがコンタクトをとり,研究テーマや活動方針を決め,ゼミ形式で研究議論を行った.

 

活動成果・自己評価

活動成果:本年度の活動の流れとして,9月または10月に学生が交流希望する理研研究者とコンタクトをとり,各自の活動内容と研究テーマを決定した.その後,各学生と研究者間でのペースに任せ,研究議論を主体とした交流を行った.本SGとしての全体的な活動として,1月上旬に中間報告会を開催し,参加学生と理研研究者同士で研究議論を行うことで,異分野交流の促進を図った.

自己評価:基本的には学生の主体性に任せており,理研研究者にとってボランティアでの協力をしていただいたため,理研研究者から学生への主体的なアプローチがしづらい状況であった.また,各学生の研究テーマが大きく異なるという本スタディグループの最大の魅力を活かせるような,学生間の交流を促進する上手い仕掛けを用意できなかったのが反省点である.学生からは,「本スタディグループをきっかけに,普段手を出せないような研究テーマに取り組めて大変有意義であった」と前向きな感想をもらっており,理研研究者からも「モデルの研究を進める上での色々な経験やどういうことを考えて発展させたのかを説明できたのは良かった.また,論文に書かれているアプローチだけでなく,論文には記載されていない別のアプローチにも興味をもってもらえた」と好感触であった.学生と理研研究者の双方において,刺激的な活動となったと感じている.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
小林 俊介(代表教員) 数学・数理解析専攻 SACRA特定助教
坂上 貴之

数学・数理解析専攻

教授
初田 哲男 理研iTHEMS プログラムディレクター
今井稀温 地球惑星科学専攻 B4
間仁田侑典 物理学・宇宙物理学専攻 M2
山本 亞理紗 数学・数理解析専攻 M1
伊東 杏花里 生物科学専攻 B3

 

[SG2020-9]疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓

活動報告

活動目的・内容

非常にダイナミックな生命現象である「疾患」を数学・物理のテーマとして取り上げ、医学の研究グループと行っている共同研究に実際に参加することで、各自の専攻分野の知識を深めるだけでなく分野の枠を超えて研究の視野を広めることがこのSGの目的である。

病理診断の現場においては、固定した細胞組織の染色画像を観察し、細胞の形状や配列秩序から総合的に疾患の種類とその進行度を主に経験則に従って判断している。一般的に疾患時の組織は、健常時の組織構造に比べて個々の細胞の見かけや集団秩序が乱れていることが知られているが、組織のホメオスタシス(恒常性)の乱れを定量的に解析・評価することは未開拓の課題である。このSGでは、ヒト病理画像を用いて、個々の細胞やその集団秩序構造の乱れを物理学的に解析し、これを数理モデリングとリンクさせることで定量化し、読み解くという先行例のないことを目指している。

一昨年度スタートした本SGは学部生から博士院生まで分野を超えた参加者が集っており、全体講義を通して知識を共有し、病理画像の解析にとりかかっている。初年度は一般公開されている病理画像の解析を始めたが、昨年度は研究発表にも利用できる独自の病理サンプルを入手し、画像の撮影や細胞核データの抽出を行なった。昨年度の間に取得して基礎解析を済ませた画像を用いて、今年度は数理解析とモデリングにより重点を置く事で本SGの活動をさらに大きく発展・展開させる。このため、画像解析ソフトウェアなど新しい技術を積極的に活用すると同時に、数理モデリングや新古のデータ解析手法の理論的な背景と応用方法を学びながら、データに隠された情報を読み取っていく。

参加者は数学・物理・医学の三つの研究グループを回って、このSGで用いる解析・モデル手法や理論についてオンライン講義もしくは昨年度に取得した実際のデータを前にしたオンライン実習を通じて習得する。その中であがった成果や直面した疑問・問題点をSlackのような共同作業アプリや全体のオンラインセミナーなどで発表・議論する。

 

 

活動成果・自己評価

本SGでは,病理組織の画像を解析して,健康な組織と区別するための物理的な指標を見つけ出す,という目標を掲げ,担当教員の指導の下で参加学生が自分の手で作業を行った.今年度は子宮頸癌を中心に,毎週Zoomを用いてオンラインで集まり,議論しながら以下のように研究を進めた.
1. 病理画像診断に関する全体講義
2. 病理画像を教材に核などの特徴を抽出する方法に関する講習
3. 機械学習を利用した細胞核抽出の実習

4.大きさ・位置・角度・真円性などの核の特徴を表すデータの基本的な統計解析
細胞核が基底膜となす角度が重要な指標と思われるが,基底膜が曲がっているとき角度が一意に定まらないという問題があった.今年度は,この問題に集中し,平均曲率流とレベルセット法に基づいた数値アルゴリズムを構成して解決できた.市販の染色組織固定標本から病理画像を撮影し,上皮内癌の進行度の判定にこの角度が指標として使えそうであることを発見でき,とても満足できる成果があがった.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
Karel Svadlenka(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
田中 求

高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点、

ハイデルベルク大学 

教授
山本 暁久 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
鈴木 量 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
鶴山 竜昭(協力) 京都大学医学研究科 教授
大谷 暢宏 医学部 B3
司 怜央 医学部 B3
權 俊河 理学部 B4
田谷 直亮 理学部 B4
藤﨑 碩人 理学部 B4