元物理学・宇宙物理学専攻(物理学第一分野)所属・名誉教授 前野 悦輝
原稿締切に間に合わず、関係各位にすっかりご迷惑おかけして申し訳ありません。「さん・様・先生 – 京大理学部の流儀」、「働き方改革と『ゆとり研究』」などの題目で書こうとしたのですが、どうも「弘報として問題のない内容」は書けなくて挫折しました。かわりに近況をご報告します。
4月からは、豊田理化学研究所と本学高等研究院との連携研究拠点(Toyota Riken – Kyoto-University Research Center, TRiKUC)を立ち上げる任務をいただき、本部構内の百万遍交差点に近い建物に常駐して働きまくっています。昨年度以上に忙しく過ごしていますが、講義や大学院生セミナー、諸会議などで予定表が毎日一杯になっていた生活とは対極にあります。この研究環境を与えていただいて、どれだけの研究ができるのか、自分にチャレンジする毎日です。
8月下旬には、共同組織委員長を務める第29回低温物理学国際会議(LT29)が札幌市にて現地・リモート両方のハイブリッド参加で無事開催されました。約1,150名の参加登録があり、現地参加者数も海外からの約150名を含む800名近くに上りました。観光庁からの支援もいただき、大型ハイブリッド国際会議開催の様々な新しい試みにチャレンジすることもできました。
さて、コロナ禍のもとでの物理学教室ローレンツ祭特別講義や最終講義などでは、湯川秀樹博士の「同定」を引用しました。二つのものが似ていると気づくところ「類推(analogy)」から、二つは違うものだが何らかの意味で同じだと気づくところ「同定(identification)」へ昇華させる科学のアプローチについて、私自身の経験に沿って説明しました。下鴨にある湯川博士の旧宅や遺品は、2021年に京都大学に寄贈され、市民の会とでその保存と活用の計画が進められています。湯川博士の学問や科学哲学、文化の遺産が、旧宅の公開と共に、理学部・理学研究科の学生を含む若い世代にも広く伝わるよう、私も何かお手伝いできれば良いなと考えています。