物理学・宇宙物理学専攻(物理学第二分野)・教授 橋本 幸士
近年の機械学習による社会革新は、自動車の自動運転などを例に挙げるまでもなく非常に広範な領域に及びつつあります。また、さまざまな技術革新が科学を進めることも、歴史 上の事実です。物理学に人工知能が応用されるのも、例外ではありません。
画像認識に威力を発揮した機械学習は、画像解析を主とする物理学関連分野に広く応用されています。例えば、超新星の発見が飛躍的に効率化された研究のニュースをご記憶の方 もいらっしゃるでしょう。「機械学習はブラックボックスだ」と言っても、機械が予測し た結果を科学者が判断して科学に取り込むことは、現象論的な科学のアプローチの延長と して極めて自然なことです。
画像認識に限らず、機械学習の物理学への応用は2017年ごろを起点にかなり広がり始めており、私が弦理論のホログラフィー原理に機械学習を応用する研究を始めたのもその頃です。ホログラフィー原理とは、量子重力の時空自体が、より低い空間次元の上に定義され た非重力の量子多体系から創発するという考え方で、AdS/CFT対応とも呼ばれています。 この原理が動作するメカニズムは未だ解明されていないため、非重力系から創発時空を具 体的に計算する手法(bulk reconstructionと呼ばれます)の研究が盛んです。
私は、深層学習におけるニューラルネットワーク自体が、ホログラフィー原理における創 発する時空である、と同一視すれば、機械学習における学習そのものが時空創発となるこ とに気づき、そのアイデアをこの数年で具体化してきました。深層学習を利用することに よって創発時空を構築する新しい手法が作られたため、それを元にさまざまな創発時空が 現在では研究されています。 。
機械学習はこれからも物理学に浸透していくことと思います。私は、機械学習が物理学者 の共同研究者として活躍していく未来を描いています。