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1回目

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高橋淑子 教授
高橋淑子 教授

高橋:動物の高橋淑子と申します。よろしくお願いします。私の専門は発生生物学で、イメージしやすいかと思います。私も含め、みなさん例外なく1個の受精卵から始まっていますよね。それが分裂して2個になり、4個になり、8個、16個、32個となっていって、ただ単に細胞のお団子みたいだったものから、いつの間にやら形ができていきます。頭やらお尻やら、であるところから手が伸び、足が伸び、順番に決まったところに決まったものができます。そして例外なく、手が背中から生える人などはいません。そういったことがどのように決まるかということを遺伝子レベルやタンパク質レベルなど、いろんなレベルで解き明かそうというのが私たちの学問です。今マスメディアを賑わしているiPS細胞や、ある遺伝子が働かないと何とか病になるということも、発生生物学の延長上にあるといえます。私自身は、その中でも特に細胞の社会に興味を持っています。細胞の振る舞いを見ると、人間の社会とそっくりなんです。出会いがしらに「やあ」と言って急に恋に落ちて抱き合ったりする細胞もいるし、ぱっと見て「おまえは好かん」と言ってちょっと喧嘩する細胞もいます。あるいは集団で、「こっちのほうに来なさいよ」って言っているのにちょろちょろちょろちょろ変なところに行く細胞もいます。この「細胞の社会」というのは、昔、岡田節人先生が非常に主張されていました。1個の細胞が骨になったり神経になったりするのを細胞分化といって、これが大切だというのはもちろん言うまでもありませんが、私たちは、細胞が社会を作ってその中で秩序を保ちつつ刻々と変わって行くという見方をしているんです。発生の過程を見ると、彼らは一刻りとも仕事を休まず、どんどんどんどん変わって行きます。そういう空間、あるいは時間の流れの中で、細胞がどういう風に調節を受け、制御されているのか。また、それを支えている遺伝子はなんなのかということを調べています。具体例を挙げると、例えば私たちの背骨はおなじような骨が何重も重なっていて、1個1個の間に切れ目があります。その間には椎間板がありますが、基本的に骸骨はバラバラで、針金で止まっているのでうまく立っているんです。そういう、同じ小さな骨が何十もできる仕組みはいったい何なのだという問題があります。これは、種を明かすと、一続きの何もないところに端っこから規則正しく切れ目ができていきます。これを私は分かりやすく「羊羹切り」と言っています。羊羹をその端っこから同じように切って行くような、そういう現象があるわけです。それがうまいこと切れないと私たちの体は前後に曲がりませんが、では、その羊羹を切る包丁は何なのかということをだいぶ前に研究しました。もちろん胎児の中に包丁があるわけはないので、それは全部細胞がやるわけですが、その時に「じゃあここを今から切るよ」というラインを挟んで、両側の細胞が関ヶ原の合戦の東軍と西軍のようににらみ合って、その間にプシュッと切れ目ができるんです。そのタンパク質の遺伝子も今は全部分かっていますし、私たちもかなり明らかにしました。こういう仕組みが次から次に働いて、うまいこと私たちの背骨ができるんです。これはほんとに巧妙な仕掛けですよね。やっぱり理学の研究というのは、面白いことありすぎ、不思議なことありすぎだと思います。それから、細胞が体のある地点からある地点までぴゅーっと長い距離動くという現象もあります。痛いとか寒いとか暑いとかを感じる私たちの末梢神経は全部、そういう長い距離を動く細胞が頑張ることによってうまくできてくるんですが、その動く仕組みにすごく興味を持っていて、今はその研究をしています。細胞が動くということは、発生のみならず、癌の転移という極めて起こってほしくない現象にもある程度共通しています。ですから、「癌は癌で、発生は発生」ということではなくて、けっこうそこには共通したメカニズムがあるわけです。そういう感じで、今は発生を中心としてどんどんいろんな方面に研究を展開できるという面白い時代になっています。今言った内容はそのまま、もうすぐ出る理学部広報に載りますのでぜひご覧ください。以上です。

 

 

三輪:はい、どうもありがとうございました。続いて、常見さん、お願いします。

常見:今日は黒子というか、カメラマンをしています。所属は今、理学部社会交流室というところで、おおよそ2年前の4月に社会連携室として発足し、その年の10月に社会交流室と理学部学術推進部発足にともない名前が変更されました。もともと物理の原子核・素粒子物理学で博士号をとったんですけど、今は社会交流事業に専任で働いています。今日は黒子なのでこの辺で。

三輪:では、次は長田先生です。

 


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