スレヴィン大浜華
ヒトiPS細胞がはじめて作製されてから10年が過ぎた。iPS細胞の再生医療などへの応用研究に、たくさんの人々の期待が寄せられている。一方で、私たち一般市民はそれらの科学研究が抱える生命倫理問題について考えられているだろうか。
iPS細胞は、受精卵から核を取り出す必要のあるES細胞のような倫理問題を抱えていないかにみえる。しかし、iPS細胞の研究にはES細胞研究との比較検討が必要不可欠で、ただちに倫理問題を解決したとはいえない。また、iPS細胞を卵子に分化させ、受精卵を作ることができるのなら、iPS細胞にもヒト胚と同様の倫理問題があると考えることもできる。
科学や哲学の専門家でない一般市民である私たちも、倫理問題についてもっと議論するべきだと思う。なぜなら、私たちは医療を通して倫理問題を抱える研究成果の恩恵を受けているからだ。私たちが日々服用する薬も、動物実験やリスクのある治験を経て開発されている。生命科学研究とその社会への還元の促進を使命とする英国医科学アカデミーは、一般市民の意識調査などを行い、倫理問題に関する勧告を行っている。こうした取り組みを日本でも行うべきだと思う。
また、私たちは、科学研究の成果と問題を把握するだけでなく、将来生じるかもしれない問題に関しても議論しなければならない。これまで、研究と法整備の足並みがそろわず、科学的根拠の不十分な再生医療サービスが生まれた事例や、基礎研究が規制を受け発展しなかった事例があるからだ。
一般市民をまきこむ役割は、街の診療所や薬局などが担えると思う。国が助成金を出して、生命倫理問題に関する短い映画を見たり、研究者と対談したりできるイベント実施を呼びかけてはどうか。大手ドラッグストアで、メイク講座だけでなくそんな講座があれば、と思った。