企画名

本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る

 

参加教員

教員名 所属 職名
高瀬 悠太(代表教員) 生物科学専攻 SACRA特定助教
荒木 武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
國府 寛司 数学・数理解析専攻 教授
平島 剛志 白眉センター・生命科学研究科 特定准教授
高橋 淑子 生物科学専攻 教授
稲葉 真史 生物科学専攻 助教
 

企画の概要

 本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、京都大学の活動制限対応レベルに応じて、発生現象を数理的に解析した研究論文の輪読と討論、着目する発生現象の「実物」観察をできる限り「対面+オンライン」の併用で行う。そして、これらを通して数理と生物科学との分野横断の実例を学んでいく。
 本年度注目するトピックは、下記のような「振動現象」である。

 

1)体節形成における遺伝子発現のオン/オフ(分子レベルの振動現象)
 胚発生過程の胴体領域では、脊椎骨や骨格筋を将来生み出す体節中胚葉が頭部から尾部に向かって規則正しい繰り返し構造(体節)を作る。この体節の規則正しい形成には、転写因子群の遺伝子発現振動が必須である。

 

2)心臓の拍動・腸の蠕動(ぜんどう)運動(細胞レベルの振動現象) 
 心臓や腸は生理活動として胚発生過程から周期的な振動運動(拍動や蠕動)をそれぞれ行っている。これらの運動にはペースメーカー細胞と呼ばれるリーダー役が周囲の筋肉細胞へ周期的に指令を送ることで実現されている。

 

実施期間・頻度

隔週に1回程度、通年
 

TA雇用の有無

要相談
 

その他、特記事項など

本SGの大きな目的の一つは、「本物・実物を通じた学生・教員を含めた分野間交流」であり、その目的を叶えるためには対面形式の討論・実習の方が適している。このため、京都大学の活動制限対応レベルおよび感染拡大防止に最大限配慮した上でSG活動を実施していく。
 

問い合わせ先

高瀬 悠太 yu-takase*develop.zool.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 


 
図1. 2021年度に扱った題材、「振動現象」

 
図2. 後期のトリ胚実習、「腸のぜん動運動」の観察・解析結果
(左)腸を円周方向に収縮させる動きが左右から伝搬していく様子(白矢印)が観察できた。時間単位:分:秒
(右)10分間の腸ぜん動運動データをカイモグラフ解析にかけた結果。左端の黒三角は腸の収縮伝搬の始まりを、赤点線はある1回の腸ぜん動運動の軌跡(左右からの腸収縮の伝搬が中央付近で一体化する様子)を表す。


図3. 3/11(金)に共催した生物多様性コロキウムの
ポスター要旨
 
  報告会資料ダウンロード(6765 KB)

 

活動報告

活動目的・内容

 本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、「対面+オンライン」の併用で、発生現象を数理的に解析した研究論文の輪読と討論、着目する発生現象の「実物」観察を行い、これらを通して数理と生物科学との分野横断の実例を学んでいく。本年度注目するトピックは、下記の「振動現象」である(図1)。

1)体節形成における遺伝子発現のオン/オフ(分子レベルの振動現象)[1, 2]
 胚発生過程の胴体領域では、脊椎骨や骨格筋を将来生み出す体節中胚葉が頭部から尾部に向かって規則正しい繰り返し構造(体節)を作る。この体節の規則正しい形成には、転写因子群の遺伝子発現振動が必須である。
[1] “Species-specific segmentation clock periods are due to differential biochemical reaction speeds, Matsuda M. et al., Science (2020)”
[2] “Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock, Yoshioka-Kobayashi K. et al., Nature (2020)”
2)腸のぜん動運動(細胞レベルの振動現象)[3-5] 
 腸は生理活動として胚発生過程から周期的な振動運動を行っている。この運動にはペースメーカー細胞と呼ばれるリーダー役が周囲の筋肉細胞へ周期的に指令を送ることで実現されている。
[3] “Ca2+ signaling driving pacemaker activity in submucosal interstitial cells of Cajal in the murine colon, Baker SA. et al., eLife. (2021)”
[4] “Network analysis of time-lapse microscopy recordings, Smedler E. et al., Front. Neural Circuits. (2014)”
[5] “Network properties of interstitial cells of Cajal affect intestinal pacemaker activity and motor patterns, according to a mathematical model of weakly coupled oscillators, Wei R et al., Exp. Physiol. (2017)”
 

活動成果・自己評価

 前期は、2つの題材論文の輪読・議論を通して、体節時計遺伝子Hes7が「生物種特異的な発現振動を起こすしくみ」や「周囲の細胞と協調的な発現振動を起こすしくみ」の理解を深めた。後期は、3つの題材論文の輪読・議論を通して、腸のぜん動運動におけるペースメーカー細胞と腸平滑筋細胞の関係性やペースメーカー細胞のネットワーク構造についての理解を深めた。トリ胚実習では、体節形成過程や腸のぜん動運動の観察を行った。特にぜん動運動観察では、動画撮影から運動評価用のカイモグラフ作成まで実施できたため、実験の一連の流れを実体験してもらえたと思う(図2)。また、ネットワーク構造解析に対する理解を深める目的で、論文4内の解析プログラムを自分たちで動かしてみたり、青柳富誌生 教授(京大情報学研究科)に内部セミナーを行って頂いたりした。これらの経験を通して、実験側のメンバーにとっても数値解析プログラムが身近な存在になったように感じた。この他、3月には生物多様性コロキウム(富樫英 助教(神戸大学)と村川秀樹 准教授によるDuoトーク)を共催し、講演から数理と生物科学との分野横断の実例についての理解を深めた(図3)。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
髙瀨悠太(代表教員) 生物科学専攻 SACRA特定助教
國府寛司 数学・数理解析専攻 教授
荒木武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
高橋淑子 生物科学専攻 教授
稲葉真史 生物科学専攻 助教
平島剛志 白眉センター・生命科学研究科 特定准教授
黒須 航太郎 その他(理学部) B2
宇都宮翔大 生物科学専攻 B3
石田祐 生物科学専攻 M1
梯 弘武 その他(理学部) B1

 


[SG2021-3] ニワトリ胚観察実習(2022年2月18日)

 SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、後期の題材現象である「腸ぜん動運動」を観察しました。参加学生たちは自分達の手でハサミや注射器を扱い、孵卵約12日目の卵の中にいるニワトリ胚の各組織・器官を観察しました。そして、ピンセットをうまく使って、取り出した腸(腸管+腸間膜)から腸間膜を取り除き、腸管のみをタイムラプス観察することで、腸ぜん動運動の「実物」を自分たちの目で捉えることに成功しました。加えて、タイムラプス動画を用いた腸ぜん動運動のカイモグラフ解析も行い、ぜん動運動の回数や速度などの評価手法を体験しました。 
 今回の実習を通して、参加学生たちが腸ぜん動運動の「本物」に触れることで、観察・解析の難しさや面白さなどを実感してくれたと思います。
(文責 高瀬悠太)



 


[SG2021-3] ニワトリ胚観察実習(2021年8月19-20日)

 SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、前期の題材現象である「体節形成」を観察しました。参加学生たちは自分達の手でハサミや注射器を扱い、孵卵約1.7日目の卵の中にいるニワトリ胚、そして、約15ペア作られている体節を自身の眼で観察しました。加えて、体節を含むトリ胚後方組織をゲル上で培養し、顕微鏡下で体節形成が進む様子を捉える実験操作を試みました。予備実験では約1.5時間に1ペアずつ体節が増える様子が観察できたのですが、ゲルの状態や培養条件が悪かったのか、実習では全員失敗してしまいました。また、体節になる予定の未分節中胚葉(PSM)への遺伝子導入も試みました。PSMに遺伝子導入溶液を注入する操作が難しかったようで、狙った組織ではない場所に遺伝子導入されてしまう結果が出てしまっていました。 
 今回の実習を通して、参加学生たちは実際のニワトリ胚の美しさや、論文で書かれている内容を「本物」で観察・検証することの難しさなどを実感してくれたと思います。
(文責 高瀬悠太)