企画名

脳・生命の意思決定の数理(セミナー型SG)
 

参加教員

教員名 所属 職名
加藤 毅(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
篠本 滋 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
鈴木 裕輔 生命科学研究科 助教
小島 諒介 医学研究科 特定助教
小川 正晃 医学研究科 特定准教授
 

企画の概要及び実施期間・頻度

隔週程度

 

TA雇用の有無

有り

 

その他,特記事項など

令和2年度は、下記の項目を行う予定でいる。本SGの特色は、オンライン輪読だけにとどまらず、新しい問題を発掘するための議論をオンラインで行う。

また学生自らモデリングを行い計算機で実装することを目指すが、オンラインで行うためには技術的な問題が発生する可能性があり、その場合には対面でのセミナーが可能になり次第行う予定でいる。

 

(1) 「生命動態の数理モデル」に関する輪読会および「意思決定としての統計的推論モデル」に関する輪読会を、オンラインで行う。

(2) 外部講師によるオンライン講義を不定期で行う。2ヶ月に一回程度を想定している。

また、海外より著名な研究者による、オンライン講演を行っていただく予定である。

さらに、その講演内容を理解するための補足オンラインセミナーを事前に行うことで事前準備学習を行う。

 

問い合わせ先

加藤 毅 tkato*math.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
 

スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。

 



図1. SGの一コマ


図2. データ駆動生物学ワークショップの一コマ

活動報告

活動目的・内容

 令和2年度は、下記の項目を行った。本SGの特色は、オンライン輪読だけにとどまらず、新しい問題を発掘するための議論をオンラインで行う。

(1) 統計的学習理論・強化学習・自由エネルギー原理・深層学習・次元削減の講義を行った。
(2) 外部講師5名によるオンラインワークショップを開催した。

 

活動成果・自己評価

生命システムの動的な意思決定のモデリングのための基礎を習得することを目的に計8回の講義を開催した。初めの4回は、統計基礎・回帰・判別・EMアルゴリズム・状態空間モデルを講義した(担当:本田)。その知識を基礎にして、その後は、生命の意思決定に関わる強化学習や自由エネルギー原理の講義を計2回行った(担当:本田)。さらには、生命データ解析にとって有用な深層学習や次元削減に関する講義も開催した(担当:小島)。これだけの内容の講義を学生に提供できたことは、評価に値すると思っているが、教員の多忙およびオンラインでの活動のため、学生の自主性に基づく活動ができなかったことが心残りである。3月には5名の国内研究者を招聘し、データ駆動生物学ワークショップ(https://sites.google.com/view/data-driven-biology-workshop/)を開催した(下写真参照)。登録者数160名を超え、参加人数は常時70名を超えており、大変盛況であった。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
加藤 毅(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
篠本 滋 物理学・宇宙物理学専攻  准教授
本田 直樹 生命科学研究科 准教授
鈴木 裕輔 生命科学研究科 助教
小島 諒介 医学研究科 特定助教
小川 正晃 医学研究科 特定准教授
加々尾 萌絵 生物科学専攻 B3
司 怜央 その他(医学部医学科) B3
中牟田 旭 理学部 B2
山田莉彩 化学専攻 B3
小池 二元 理学部理学科生物系 B4
糀谷 暁 化学専攻 M2
渡邊 絵美理 生物科学専攻 M2
澤崎 義仁 物理学・宇宙物理学専攻 B4
東 玲於 生物科学専攻 B3
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 M2
長岡 高広 数学・数理解析専攻 D3

 

[SG2020-7]データ駆動生物学ワークショップ (2021年3月23日)


SG7では、2021年3月23日、「データ駆動生物学ワークショップ」をオンラインで開催しました。学外より5名のスピーカーを迎え、学内外からの100名を超える参加者と共に、大いに議論を深める有意義な機会となりました。講演の概要は下記の通り。

1)木村幸太郎 名古屋大学 理学研究科教授
「線虫×機械学習」で解明する脳機能と行動の動作原理
線虫C. エレガンスの脳はわずか200個程度の神経細胞から構成されており、全ての神経回路構造が解明されているが、その非常に小さな脳によってさまざまな刺激の知覚・記憶・(厳密な意味での)意思決定などを行うことができる。さらに体が透明であることから、光学的に神経活動を計測したり制御したりする分子遺伝学的ツールを用いれば、C. エレガンスの脳全体の神経活動を顕微鏡で計測したり、行動中のC. エレガンスの神経細胞活動を計測/操作することも可能である。これらの理由から、線虫C. エレガンスは脳機能と行動の動作原理を解明するためのシンプルな実験対象としてきわめて優れている。本講演では、我々が共同研究などで開発したC. エレガンスの脳活動や行動から多次元ビッグデータを計測する幾つかの先端的顕微鏡、および計測されたデータから重要な情報を抽出するため機械学習手法に関して紹介し、さらなる未来に関して聴衆の方々と議論したい。

2)李 玉哲 沖縄科学技術大学院大学 研究員
Investigation of information flow and temporal-spatial organization of neurons across cortical layers from multi-depth two-photon imaging data The layered structure of the cerebral cortex remains mysterious. How information flows among cortical layers? What is the role of the multi-layer structure of the cerebral cortex in temporal state transitions and the spatial communities? To answer these questions, we acquired a serial scanning of two-photon calcium imaging at different depths from rodent posterior parietal cortex.
Neurons communicate via a combination of electrical signals (i.e., action potential) and chemical signals (i.e., neurotransmitters). How to evaluate the information carried in the neuron communications? Transfer entropy gives a possible tool to evaluate the information transfer. However, when applying the transfer entropy on the calcium imaging data, there are a lot of practical issues need to discuss for estimating the transfer entropy on the continuous, noisy neural data. We first discussed the technical details of the calculation of transfer entropy on our data and addressed the information flow by checking the average transfer entropy among different depths.
To address the temporal organization of population neural activities, we also applied a hidden Markov model (HMM) analysis, which assumes the population neural activities are derived by the hidden states. Based on the transitions between discrete states, we detect several communities (metastate) among these hidden states, i.e., the brain states tend to transit among states in the same metastate.
To address the spatial organization of neurons, we applied a Bayesian hierarchical model to identify communities of multivariate time series. This method assumed the neuronal activity time series are generated from a lower dimensional latent factor time series. And the time series of neurons belong to the same community have the same factor loading matrix. Using this method, we identified neuron clusters among different cortical depths.

3)舟橋 啓 慶応義塾大学 理工学部生命情報学科 准教授
深層学習が駆動する定量生物学の新展開
近年、顕微鏡技術やイメージング技術の向上に伴い様々なライブセルイメージング技術が確立されたことから、時系列顕微鏡画像の取得が容易となった。一方で、深層学習アルゴリズムのひとつである畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN)を用いた顕微鏡画像に対する画像解析手法が多数提案されてきている。CNNの最大の特徴は物体認識の精度のみならず、解析者が気づけない画像中の特徴を自動的に提示することが可能な点にある。今回はこれら顕微鏡画像を対象に当研究室が進めている深層学習を用いた定量化技術(分化判別、マウス初期胚のセグメンテーション、教師なしセグメンテーション、細胞遊走予測等)について紹介したい。

4)島崎 秀昭 北海道大学 CHAIN 特定准教授
非定常・非平衡イジングモデルによる神経細胞集団活動の解明」
本講演ではイジングモデルを用いた神経活動の解析の現状と将来展望を紹介する.脳の神経細胞はネットワークを形成し,スパイクと呼ばれるイベントを介して外界の情報や行動を符号化している.イジングモデルはイベントによって相互作用する要素からなるシステムを記述するコンパクトなモデルで,統計学・機械学習・統計物理学における標準的なモデルとして広く使用されている.このモデルで神経活動を記述することで,神経系の計算を機械や物理現象による計算と同じ枠組みで記述し,統一的に理解することが容易になる.神経科学における応用上重要なのは,データからモデルのパラメータを推定する「逆イジング問題」とその手法である.これまでに逆イジング問題を解くことで培養神経細胞や麻酔下の動物の集団活動が調べられてきた.しかし,これらは系の定常性と結合の対称性を仮定する平衡イジングモデルを用いており,覚醒・行動下で記録されたダイナミックに変動する神経活動を記述する事ができない.本講演では,我々が10年以上に渡って開発してきた状態空間法を用いたイジングモデルよる動的な集団活動の解析環境[1,2]を紹介し,最近の非平衡系への取り組み[3]を紹介する.

5)中岡 慎治 北海道大学 生命科学院 准教授
「個体差に注目した細菌叢データ解析」
腸内細菌叢の組成変化や他臓器へのトランスロケーションが、肺や脳などで生じる慢性疾患発症に関与することが明らかになっている。腸内細菌叢を臓器間ネットワーク変調のマーカーとして活用することで、多疾患併存 (マルチモビディティ) の早期発見と予防につながると期待される。本講演では、早期発見と予防につながる発症前状態の予兆検出手法や細菌叢の個体差に注目し、どのようなデータ解析や数理科学的手法が必要であるかについて、展望と研究の進捗状況を紹介する。まずはじめに、予兆の検出に関連する early warning signal と、状態遷移の前状態に変動する部分ネットワークを検出する手法である Dynamical Network Biomarker (DNB) について紹介する。続けて、細菌叢の個体差に着目することで、個々人の健康状態の経時変化や位置づけをデータから表現する数理解析手法について紹介する。
(文責: 本田直樹)