企画名
カイメン骨片骨格形成の数理モデル構築 |
参加教員
教員名 | 所属 | 職名 |
---|---|---|
船山 典子(代表教員) | 生物科学専攻 | 准教授 |
坂上 貴之 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
企画の概要
動物の中でもカイメン動物は種ごとに異なる、非常に多種多様な形態を持つ。加えて動物でありながら植物と同様、生育環境に合わせた成長による形態「表現型可塑性」を持つ。本企画では、このように、柔軟に多様な形態を生み出せる仕組みを統一的に理解するための、「カイメンの骨片骨格形成数理モデル構築」に挑戦する。
代表教員のグループの明らかにした「カイメン骨片骨格形成原理」を基にした数理モデル構築は、数理生物学者本多久夫博士が「数理生物学者につきつけられる課題」とコラムで紹介してくださったものである (CREST BIODYNAMICS News letter 第3号2015:https://www.jst.go.jp/kisokcrest/project/35/pdf/CREST-Biodynamics_vol03J.pdf)。すでに、秋山正和博士(明治大学)との共同研究でフェーズフィールド法を基にした2次元の数理モデル構築Ver.1が出来ており、針状の骨片が柱状に繋がることを上手く表現出来ている一方、現実と合わないいくつかの問題点も見えてきた。本SGでは,秋山博士の協力も得て、このカイメンに関して現象とその数理モデル化に関して詳しく説明するとともに,現行の数理モデルに囚われない全く違う切り口からの数理モデル構築のアイディア自体を議論することも目的としている.
実施期間 一年間・頻度
実施開始から3ヶ月間ほどは1ヶ月に1度程度、その後は参加学生の解析の進行状況に合わせて、2ヶ月に1回程度ミーティングを行い、研究結果を議論すると共に次のステップの打ち合わせを行う。細かな研究打ち合わせは随時メールなどでも行う。これまで共同研究で秋山正和博士(現 明治大学)との共同研究で構築したフェーズフィールド法を元にした数理モデルをベースに、問題点のうち改善案が具体的にある手法を検討することを希望する学生がいた場合は、適宜秋山博士にも助言を戴きながら進める。
TA雇用の有無
雇用の計画はありません。
問い合わせ先
船山 典子 funayama.noriko.6a*kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
スタディグループへの登録は締め切りました。
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。
活動報告
活動目的・内容
動物の中でもカイメン動物は種ごとに異なる、非常に多種多様な形態を持ち、加えて動物でありながら植物と同様、生育環境に合わせた成長による形態「表現型可塑性」を持つ。本企画では、このように柔軟に多様な形態を生み出せる仕組みを統一的に理解するための、「カイメンの骨片骨格形成数理モデル構築」に挑戦する。代表教員のグループの明らかにした「カイメン骨片骨格形成原理」を基にした数理モデル構築は、数理生物学者本多久夫博士が「数理生物学者に、つきつけられる課題」と紹介してくださったものである(CREST BIODYNAMICS News letter 第3号2015https://www.jst.go.jp/kisokcrest/project/35/pdf/CREST-Biodynamics_vol03J.pdf)。すでに、秋山正和博士(明治大学)との共同研究でフェーズフィールド法を基にした2次元の数理モデル構築Ver.1が出来ており、針状の骨片が柱状に繋がることを上手く表現出来ている一方、現実と合わないいくつかの問題点も見えてきた。本SGでは,秋山博士の協力も得て、このカイメンに関して現象とその数理モデル化に関して詳しく説明するとともに,現行の数理モデルに囚われない全く違う切り口からの数理モデル構築のアイディア自体を議論することも目的とする。
活動成果・自己評価
参加者は3回生がメインであったため、数理モデル構築の基礎と実際の講義に重点を置く内容に変更し、5回のオンライン講義(合計11時間)を行った。数理の基礎については、明治大学MIMS チュートリアルシリーズのうち、秋山博士の「コマンドライン操作と数値計算法入門」https://sites.google.com/view/mimspython/、及び、白石博士の「pythonによるデータの取り扱いと可視化」https://sites.google.com/view/mimspython/を本SG参加者も受講させていただいた。非常に充実した資料を用い、解説と共に各自課題に取り組む実践も含むこれらチュートリアルで基礎を習得した。続いてカイメン骨片骨格形成機構に関する実際の研究成果に関して2回の講義で学んだ上で、秋山博士により、骨片骨格形成数理モデル構築について、どの様に構築したのか、基礎から詳しく解説を受けた。
本SGの実際の参加者は4人(加えて、共同研究の関係で工学研究科4回生1人)であったが、講義途中でも分からない点を活発に質問し、全員意欲的に取り組んでいた。最後の講義の感想文にある様に、①実際の研究からどう数理モデルを発想するのか、②構築したモデルと実際との評価をどう行うのか、③構築したモデルから何が示唆できるのかといった、数理モデル構築の実際を伝える良い機会に出来たという手応えもある。コロナ感染防止の観点からオンラインと限定されていたため、実際のカイメン骨片骨格の観察や、骨片運搬のトラッキングなどの解析を体験してもらえなかった事が残念である。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
船山 典子(代表教員) | 生物科学専攻 | 准教授 |
坂上 貴之 | 数学・数理解析学専攻 | 教授 |
秋山 正和 (協力) | 明治大学・MIMS | 特任准教授 |
川島 愛音 | 生物科学専攻 | B3 |
山田 莉彩 | 化学専攻 | B3 |
市岡 宏樹 | 生物科学専攻 | B3 |
林 大寿 | 物理学・宇宙物理学専攻 | M2 |
その他:工学部 学部生1名参加
[SG2020-2]外部講師セミナー「カイメン骨片骨格形成の数理モデルVer1について」 (2020年12月9日)
外部講師:明治大学 秋山正和博士
タイトル : 「カイメン骨片骨格形成の数理モデルVer1について」 講義(ZOOM)
秋山博士のグループと、船山のグループでのこれまでの共同研究での成果について、講義があった。
I. 骨片の中央付近に細胞集団として結合した骨片運搬細胞が、骨片をおよそ長軸方向に運搬することが観察されている。どの様な方向への力が骨片に加わることで、骨片の長軸方向への運搬が実現されているのか、実際の骨片運搬の軌跡の位置情報データを用い、どのように統計的、数理的に解析したのか、詳細な解説があった。
II.カイメン骨片骨格形成について、カイメンの体の表面の上皮に骨片が刺さる結果、建て、繋げられるという観察に基づいた現在の数理モデルver1について、どの様に考え、どの様にモデルを構築したのか詳細な解説があり、残された課題についても紹介された。講義を通じて活発な質問があり、下記の感想にもあるように、実際のデータと数理モデルの双方を検討しながら研究が進む実際を感じ取ることができた。
参加者からの感想(一部抜粋)
参加者A:数理モデルに触れること自体が初めてだったので、どの程度理解できるのかという不安がありましたが、かなりかみ砕いて話してくださったので、専門的なことはともかく雰囲気は大方つかむことができたのではないかと思います。これまでのイメージでは、モデルを作って例えば細胞骨格の挙動が明らかになれば研究は上手くいった、というようなイメージがあり、実態とモデルとで研究が乖離しているイメージがありました。しかし、今回の講義をうけて、作ったモデルをもとに実際の挙動とどれくらい一致しているのか誤差評価を行い、改めてパラメーターをいじり・・・というプロセスがあることを知りました。考えてみれば当たり前のことかもしれませんが、そういったフィードバックを経て初めて数理モデルを介した解析が意味を持ってくるのだなあと感じました。
参加者B:前半の骨片の移動モデルは、個人的には船山先生が実際にとられた観測データとあまり整合性があるように思えませんでしたが(たくさん統計を取ると正しいのかもしれませんが…)、物理的なモデルとしては大変興味深かったです。後半のフェーズフィールド法を用いたカイメンの上皮形成のモデルは、私自身が化学系であるため非常になじみ深く、納得出来ました。カイメンの形態は種類によって様々だったと思うので、ゆくゆくはパラメータと初期値のみの違いでそういったバリエーションを表すことができれば面白いと思いました。(私はカイメンの成長に関して全くの無知なのですが)前半のモデルでは骨片の移動は完全にランダムとしていましたが、組織が成長している以上ある一定の方向性をもって移動すると考えるのが妥当だと思うので、前半の力学的なモデルと後半の界面の変化をうまくつなげることができないのだろうか、と思いました。また、一口に数理モデルと言っても様々な手法があることが非常に勉強になりました。自分もシミュレーションで積極的に使っていこうと思います。
参加者C:モデルの数式が現象の要素を捉えているのを実感できた。だがそのモデルによって現れるシミュレーションの結果は大きくは正しいように見えて、まだうまくいっていないところがあると分かった。条件を絞れるところはないか考える余地がありそうだった。生物学専攻の自分はまず数理の面で理解を深めてうまく生物学の知見を反映させてみたいと感じた。
(文責:船山 典子)