企画名
本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る |
参加教員
教員名 | 所属 | 職名 |
---|---|---|
高瀬 悠太(代表教員) | 生物科学専攻 | MACS特定助教 |
荒木 武昭 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 准教授 |
國府 寛司 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
平島 剛志 | 医学研究科 | 講師 |
高橋 淑子 | 生物科学専攻 | 教授 |
企画の概要
本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、発生現象を数理的に解析した研究論文を輪読すると共に、その発生現象の「実物」を観察し、数理と生物科学との分野横断の実例を学ぶ。扱う生物は、発生過程を直接観察でき、かつ未経験者でも扱い易いニワトリ胚を予定している。 本年度注目するトピックは、組織の「硬さ」や組織にかかる「力」が発生現象に与える影響についてであり、前期には、脊椎動物の体幹部(体軸)の伸長に関する論文[1][2]を輪読する。これらの論文では、体軸を構成する細胞集団の液体状から固体状への状態変化や周辺組織からかかる力が体軸伸長を促進することを明らかにしている。加えて、トリ胚を用いた体軸伸長の観察実験などを行う予定である。 後期には、細胞の集団移動における足場組織の硬さの役割に注目した論文[3]などを読み、物理的な要素の測定方法や人工操作法の最新知識を学ぶ。また、トリ胚実習の一環としてトリ胚組織の硬さを測定する予定である。 [1] “A fluid-to-solid jamming transition underlies vertebrate body axis elongation, A Mongera et al., Nature (2018)” |
実施期間・頻度
隔週に1回程度、通年 |
TA雇用の有無(講義型の場合には単位認定の有無)
要相談 |
問い合わせ先
高瀬 悠太 yu-takase*develop.zool.kyoto-u.ac.jp
(*を@に変えてください)
関心のある方は macs *sci.kyoto-u.ac.jp(*を@に変えてください)までご連絡ください。
活動報告
活動目的・内容
本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、発生現象を数理的に解析した研究論文を輪読すると共に、その発生現象の「実物」を観察し、数理と生物科学との分野横断の実例を学ぶ。扱う生物は、発生過程を直接観察でき、かつ未経験者でも扱い易いニワトリ胚を予定している。
本年度注目するトピックは、組織の「硬さ」や組織にかかる「力」が発生現象に与える影響についてであり、脊椎動物の体幹部(体軸)の伸長に関する論文[1] [2]を輪読する。これらの論文では、体軸を構成する細胞集団の液体状から固体状への状態変化や周辺組織からかかる力が体軸伸長を促進することを明らかにしている。加えて、トリ胚を用いた体軸伸長の観察実験などを行う予定である。
[1] “A fluid-to-solid jamming transition underlies vertebrate body axis elongation, A Mongera et al., Nature (2018)”
[2] “Mechanical Coupling Coordinates the Co-elongation of Axial and Paraxial Tissues in Avian Embryos, F Xiong et al., bioRxiv (2018)”
活動成果・自己評価
前期は、上記[1]の論文を通して、体軸伸長における組織の液体-固体ジャミング転移が果たす役割を学んだ。トリ胚実習では、組織が液体/固体状の判断指標となる「細胞間隙」の可視化(図1)や薬剤処理による体軸伸長への影響解析を行った。細胞間隙の観察には成功した一方、薬剤処理については検証した濃度範囲では体軸影響への影響は観察されなかった。後者に関しては、論文で出てくるデータの裏に数多くの予備実験が必要なことを参加学生たちに実感させる上で役に立ったと思う(追加実験も今後検討している)。
後期は、上記[2]の論文を通して、体軸伸長における組織間の物理的な相互作用の重要性を学んだ。トリ胚実習では、アルギン酸ナトリウム(二価の陽イオン存在下で凝固する性質を持つ)ゲルの移植(図2)を用いた組織にかかる力の可視化実験などを行い、論文に書かれている内容を自分たちの手で再現することに成功した。予想外の発見として、アルギン酸ゲルは、ゲル内に薬剤や鉄などを簡単に混ぜられる応用性の高い実験ツールだったため、来年度のSGにこのゲルを活用し、既知の結果の再現からもう一歩踏み込んだ実習およびSG活動を行いたいと考えている。
この他、本SGでは参加教員らとの共催で4回の外部セミナーを開催した。特に4月と11月に開催されたセミナーやミニシンポジウムでは細胞挙動や組織形態形成における物理的な要素の役割を解析した講演が行われ、数理と生物科学との分野横断的研究の最前線の話を聞くことができた。
参加メンバー
氏名 | 所属 | 職名・学年 |
---|---|---|
高瀬 悠太(代表教員) | 生物科学専攻 | MACS特定助教 |
荒木 武昭 | 物理学・宇宙物理学専攻 | 准教授 |
國府 寛司 | 数学・数理解析専攻 | 教授 |
平島 剛志 | 医学研究科 | 講師 |
高橋 淑子 | 生物科学専攻 | 教授 |
中牟田 旭 | その他(理学研究科以外など) | B1 |
司 悠真 | 生物科学専攻 | B4 |
村上 吉朗 | その他(理学研究科以外など) | B2 |
榊原 美緒里 | その他(理学研究科以外など) | B1 |
東島 いずみ | その他(理学研究科以外など) | B2 |
石田 祐 | 生物科学専攻 | B3 |
[SG3]ニワトリ胚観察実習(2019年7月17日)
SG3「本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る」では、本SGの前期題材論文 "A fluid-to-solid jamming transition underlies vertebrate body axis elongation (Nature 2018)" を参考に、トリ胚の尾部中胚葉組織を観察しました。参加学生たちは自分達の手でハサミや注射器を扱い、孵卵約2日目の卵の中にいるニワトリ胚を観察しました。そして、論文で注目されていた体節や未分節中胚葉(PSM)、中胚葉性前駆細胞層(MPZ)の構造を自身の眼で観察しました。加えて、論文で細胞間の隙間(細胞間隙)の可視化に使われていた蛍光デキストランの局所注入も試みました。その結果、ニワトリ胚も論文同様にPSMよりMPZの方に細胞間隙が広そうなことに加え、胚発生の時期によって細胞間隙が変化していく可能性が見えてきました。今後、これらの追試を行うと共に、組織の硬さの測定を試みていきたいと考えています。
また、今回の実習を通して、参加学生たちは実際のニワトリ胚の美しさや教科書や論文で書かれている内容を「本物」で観察・検証することの難しさなどを実感してくれたと思います。
(文責 高瀬悠太)