[SG2021-1] データ同化の数理と応用:理論モデルとデータをつなぐデータサイエンス

 
図1: 理研・京大データ同化研究会 (2022年3月16日)

図2: データ同化講義のポスター

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活動報告

活動目的・内容

 近年発展のめざましい数理統計学分野の1つに「データ同化」がある.データ同化は,現象の理論数理モデルのシミュレーション結果に本質的に含まれる予測誤差を観測データによって補正し,その予測力を向上させる手法である.例えば現在の数値天気予報における予測向上の多くがデータ同化手法によってもたらされた.一方,理学研究の各分野においては実験・観測によるデータ研究と理論モデルによる研究がその両輪となっており,現代の数理統計的手法によって,精密化・大規模化するデータを活用して理論モデルと融合する新しいスタイルの研究が可能になりつつある.また,企業などにおいても長年蓄積された技術の理論モデルと計測データとの高度融合が望まれており,そのような開発を担う高度な職業人の輩出も大学にもとめられている.
 このような状況に対して,理学における様々なデータと数理モデルを融合するデータ同化の基礎と応用について講義と実習およびその後のフォローアップのセミナーやチュートリアルを軸とした年間のコースを実施し,データ同化を用いた各理学分野の新研究の創出,理学研究科の修士/博士学生の新しいキャリアパス構築を目指す.講義型SGとして週一回の講義(前期/後期)を開講.それに合わせて研究セミナーも開催する予定である.また夏冬にデータ同化研究会を理研と京大でそれぞれ一回ずつ開催,12月にはデータ同化スクールなども計画している.なお,2020年度は新型コロナウィルスの影響で,講義が開講できなかったが,2021年度は理学研究科での講義可能形態を考慮してそれに従って開講を検討する.開講が難しい場合でもオンラインチュートリアルを開催するなどして希望学生がデータ同化の基本技術を身につけられるようにする.

 

活動成果・自己評価

活動成果:令和3年度の活動として,前期・後期に講義「データ同化A・B」を実施した.前期のデータ同化Aは16名が履修し,データ同化の理論と応用について,その入門から基礎を学んだ.低次元のカオス力学系モデルを使った実習課題に取り組むことで,実際の問題に適用するために必要な実践的な基礎技術を習得した.後期のデータ同化Bは2名が履修し,前期で履修した内容を前提とした上で,データ同化の理論と応用についてその基礎を究め,実際の応用力を養った.理研・京大データ同化研究会は,夏期はCOVID-19の影響もあり開催しなかったが,2022年3月16日にオンライン開催した研究会において,1名の学生が個別課題への取り組み結果を報告した.

自己評価:昨年度はCOVID-19流行でやむを得ず不開講とした講義「データ同化A・B」を今年度は開講することができ,特に前期は多くの受講生を集めた.例年と同様,参加者の意欲は高く,限られた時間で高い学習効果を得られた.

 

参加メンバー

教員名 所属 職名
坂上 貴之(代表教員) 数学・数理解析専攻 教授
宮崎 真一 地球惑星科学専攻 教授
三好 建正 理化学研究所 客員教授
大塚 成徳 理化学研究所 連携准教授
その他:学部生5名、院生(修士)10名、院生(博士)1名
 
 

[SG2021-2] XRで見る・3Dで触る先端科学


球面調和関数の可視化 (今井稀温)

Vicsekモデルの3次元シミュレーション (田渕辰悟)


3次元フラクタルのリアルタイム生成とVR可視化(稲生啓行)



Mandelbrot集合の3D印刷 (稲生啓行)

Mengerのスポンジの3D印刷 (稲生啓行)

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活動報告

活動目的・内容

 このSGでは、数理科学・自然科学に表われる3次元的な対象をVR機器やスマートフォンのAR機能,3Dプリンタなどを用いて観察する為の手法を学び、実際に作品を作って観察することを目的として活動を行った. 紙やディスプレイによる2次元的な表現と比べ,これらの機器を用いた3次元的な表現によって,観察対象をより身近に体感できるだけでなく、新しい構造や現象の発見や、より深い理解に貢献することが期待される. 具体的には,月に2回程度集まってZoomでセミナーや進捗報告を行った.前期はゲームエンジンであるUnityやUnreal Engineの使い方や,各自の可視化したい対象などを,参加学生を中心に説明してもらった.夏休み頃からは各自で作品を作りあげることをメインに活動を行った. 活動時間以外でも,SlackやDiscordなども用いて進捗報告や情報交換などを行った.

 

活動成果・自己評価

これまでは参加学生の交流が少なかったので,それを改善するべく,今年度は定期的にセミナーを行った.参加人数が例年より少なく,それでかえって交流は深まったように思う.お互いの興味について,また作品の技術的な話について情報交換したりもして刺激になった.稲生も学生の進捗状況を把握し,ときには助言などもしながら進めることができたので良かったように思う. 参加学生による作品は,球面調和関数の可視化,Vicsek Model の3次元シミュレーションの2つができた.また稲生は3次元フラクタルのリアルタイム生成とVR可視化,Mandelbrot集合の距離関数を用いた3Dモデルの作成と3D印刷,Mengerのスポンジの3D印刷を行った. 作品の解説は,このSGのWebページ https://macs-vr.github.io/ に順次掲載している.一部の作品はWebGLを用いてブラウザ上で簡単に実行して見られるようになっており,多くの人にこのような可視化を知ってもらうきっかけとしてとても良い提示方法であろうと考えている. 他にも,残念ながら作品を仕上げるまでには至らなかったものの,iPadのAR機能を用いた可視化に取り組んでいる学生もいた. 積極的に参加してくれた複数の学生が2022年度の活動にも参加する意思を示してくれており,今年度の蓄積を活かして更に面白い活動や作品ができることを期待している.

 

参加メンバー

教員名 所属 職名
稲生 啓行(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
市川 正敏 物理学・宇宙物理学専攻 講師
佐々木 洋平 摂南大学理工学専攻 講師
宮路 智行 数学・数理解析専攻 准教授
阿部 邦美 化学専攻 技術専門員
山本 隆司 生物科学専攻 技術専門職員
吉川 慎 火山研究センター 技術専門員
糀谷 暁 化学専攻 M2
今井稀温 地球惑星科学専攻 M1
酒井りさ子 その他(生命科学研究科) M1
木南 武 その他(生命科学研究科) M1
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 D1
松田 凌 数学・数理解析専攻 M2
田渕辰悟 物理系 B3
その他:博士後期課程1名
 
 

[SG2021-3] 本物を見て考えよう!:脊椎動物の胚観察から数理の可能性を探る

 
図1. 2021年度に扱った題材、「振動現象」

 
図2. 後期のトリ胚実習、「腸のぜん動運動」の観察・解析結果
(左)腸を円周方向に収縮させる動きが左右から伝搬していく様子(白矢印)が観察できた。時間単位:分:秒
(右)10分間の腸ぜん動運動データをカイモグラフ解析にかけた結果。左端の黒三角は腸の収縮伝搬の始まりを、赤点線はある1回の腸ぜん動運動の軌跡(左右からの腸収縮の伝搬が中央付近で一体化する様子)を表す。


図3. 3/11(金)に共催した生物多様性コロキウムの
ポスター要旨
 
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活動報告

活動目的・内容

 本企画では前年度同様、数理と生物科学との分野横断の実例を学びつつ、脊椎動物の生きた胚を観察し、発生過程で起こる様々な現象について数理モデルで説明できる可能性を議論する。具体的には、「対面+オンライン」の併用で、発生現象を数理的に解析した研究論文の輪読と討論、着目する発生現象の「実物」観察を行い、これらを通して数理と生物科学との分野横断の実例を学んでいく。本年度注目するトピックは、下記の「振動現象」である(図1)。

1)体節形成における遺伝子発現のオン/オフ(分子レベルの振動現象)[1, 2]
 胚発生過程の胴体領域では、脊椎骨や骨格筋を将来生み出す体節中胚葉が頭部から尾部に向かって規則正しい繰り返し構造(体節)を作る。この体節の規則正しい形成には、転写因子群の遺伝子発現振動が必須である。
[1] “Species-specific segmentation clock periods are due to differential biochemical reaction speeds, Matsuda M. et al., Science (2020)”
[2] “Coupling delay controls synchronized oscillation in the segmentation clock, Yoshioka-Kobayashi K. et al., Nature (2020)”
2)腸のぜん動運動(細胞レベルの振動現象)[3-5] 
 腸は生理活動として胚発生過程から周期的な振動運動を行っている。この運動にはペースメーカー細胞と呼ばれるリーダー役が周囲の筋肉細胞へ周期的に指令を送ることで実現されている。
[3] “Ca2+ signaling driving pacemaker activity in submucosal interstitial cells of Cajal in the murine colon, Baker SA. et al., eLife. (2021)”
[4] “Network analysis of time-lapse microscopy recordings, Smedler E. et al., Front. Neural Circuits. (2014)”
[5] “Network properties of interstitial cells of Cajal affect intestinal pacemaker activity and motor patterns, according to a mathematical model of weakly coupled oscillators, Wei R et al., Exp. Physiol. (2017)”
 

活動成果・自己評価

 前期は、2つの題材論文の輪読・議論を通して、体節時計遺伝子Hes7が「生物種特異的な発現振動を起こすしくみ」や「周囲の細胞と協調的な発現振動を起こすしくみ」の理解を深めた。後期は、3つの題材論文の輪読・議論を通して、腸のぜん動運動におけるペースメーカー細胞と腸平滑筋細胞の関係性やペースメーカー細胞のネットワーク構造についての理解を深めた。トリ胚実習では、体節形成過程や腸のぜん動運動の観察を行った。特にぜん動運動観察では、動画撮影から運動評価用のカイモグラフ作成まで実施できたため、実験の一連の流れを実体験してもらえたと思う(図2)。また、ネットワーク構造解析に対する理解を深める目的で、論文4内の解析プログラムを自分たちで動かしてみたり、青柳富誌生 教授(京大情報学研究科)に内部セミナーを行って頂いたりした。これらの経験を通して、実験側のメンバーにとっても数値解析プログラムが身近な存在になったように感じた。この他、3月には生物多様性コロキウム(富樫英 助教(神戸大学)と村川秀樹 准教授によるDuoトーク)を共催し、講演から数理と生物科学との分野横断の実例についての理解を深めた(図3)。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
髙瀨悠太(代表教員) 生物科学専攻 SACRA特定助教
國府寛司 数学・数理解析専攻 教授
荒木武昭 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
高橋淑子 生物科学専攻 教授
稲葉真史 生物科学専攻 助教
平島剛志 白眉センター・生命科学研究科 特定准教授
黒須 航太郎 その他(理学部) B2
宇都宮翔大 生物科学専攻 B3
石田祐 生物科学専攻 M1
梯 弘武 その他(理学部) B1

 

 

[SG2021-5] 理化学研究所とMACSを繋ぐパイプライン

活動報告

活動目的・内容

 本スタディグループでは,理化学研究所数理創造プログラム(以下,理研iTHEMS)を理研側窓口とし,京大MACSに参加している学生と理化学研究所に所属する数理科学者との間で相互的な研究交流を図り,強固な繋がりを築き上げることを目的とする.今年度における活動の基本的な流れとして,まずは交流希望の理研研究者にコンタクトをとり,研究指導の承諾を得る.その後,学生と理研研究者同士で研究テーマや具体的な活動内容,活動頻度を相談の上設定し,各自研究活動に取り掛かる.また本スタディグループ全体の活動として,月に1度の進捗報告会を開催し,理研研究者に現状報告を行うことで,分野横断的な研究議論を行う.これに追加して,以下のような活動を計画している:
 

● 理研iTHEMS(またはこれに所属する客員研究員)が主催する種々の研究セミナー,ワークショップ,集中講義等への参加
● 理化学研究所に属する数理科学関連研究室への訪問や,短期滞在などを通じた研究交流
● 理化学研究所に属する(客員研究員も含む)数理科学関連の研究者を京都大学へ招致し,学生が希望するテーマに関する講義・講演の聴講
● その他,参加学生自らが企画する行事の開催

 以上のような活動を通じて,MACS教育プログラムが掲げる「数理を基盤として理学5分野を横断する融合研究を推進し,狙ってもできない新たな学問分野の自発的創出」を目指し,学生自らが主体的かつ積極的に「分野横断的課題の発見と解決に学際的な視点から取り組む」ことを期待する.
 

活動成果・自己評価

 今年度は,オンライン上での活動となった.まずは,本スタディグループ参加登録学生が交流を希望する理研研究者へコンタクトをとり,研究テーマや活動方針を決め,学術交流を開始した.交流の仕方は一通りではなく,定期的なゼミ形式での交流,交流希望の研究者が主催するセミナーやゼミの聴講,すでに他のスタディグループで得られている成果のブラッシュアップ,そして共同研究への昇華を目指した研究議論など,参加者により様々であった.
 単なる勉強で終わるのではなく,分野間の垣根を超えた交流を実現でき,さらには理研研究者の方と今後の研究に繋がるような交流を築けた点が,本SG活動の大きな成果である.以下に参加学生からいただいた感想を一部抜粋する:「研究室でメインに研究している事とは異なるテーマに取り組めてよかった」「昨年度からの継続により,複数の手法を試行錯誤できたため,研究の質の向上につながった」「本スタディグループのような活動なしに理研の研究者の方にコンタクトを取るのはハードルが高いので,非常に良い機会に恵まれた」「本スタディグループの参加者のバックグラウンドも様々であり,進捗報告会にて他分野の研究内容に触れられたのも良かった」
 学生を受入してくださった研究者にとっても,メリットのある活動であったと評価したい.実際,「新型コロナウイルスの影響で共同研究の推進が希薄になっている中、京都大学の学生とコネクションができるというのは、まさにパイプラインとして重要だった」「私の「自分より若い研究者の指導理念」を形成するほどに、重要な経験となりました」「オンラインが不得手とする部分はありますが、本プログラムはその良い側面を使用して新しい教育・研究経験を提供していると思います。」などの意見を理研研究者から頂いている.
 その一方で,上手く研究テーマ設定ができず,十分な活動ができなかった学生からは,「SGに割く時間を十分に取れなかったことと,SGの研究プロジェクトをどう進めたら良いのかわからなかった」という意見をもらっており,そのような学生の扱いについては今後一考の余地があると反省している.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
小林 俊介代表教員) 数学・数理解析専攻 SACRA特定助教
坂上 貴之 数学・数理解析専攻 教授
初田 哲男 理化学iTHEMS プログラムディレクター
田熊大輝 生物科学専攻 B3
衣笠公陽 数学・数理解析専攻 M1
今井稀温 地球惑星科学専攻 M1
菱田温規 生物科学専攻 M1
山地 紀香 その他(農学部) B4
兎子尾理貴 物理学・宇宙物理学専攻 D2
伊東 杏花里 生物科学専攻 B4
山本和樹 物理学・宇宙物理学専攻 D2
栁澤優介 物理学・宇宙物理学専攻 M1
山本 亞理紗 数学・数理解析専攻 M2
一色 竜一郎 その他(農学部) B2

 

 

[SG2021-6] 自然界に見られる大きさと時間を見比べる

飛行中のドローン


 ドローンからみた植物園


 ドローン飛行制御中

ドローンを探せ

活動報告

活動目的・内容

 自然界は様々な“サイズ感”を伴う現象(もの・こと)で満たされている。自然物と人工物、あるいは自然の中でも生き物と生き物以外など “サイズ感”は多様な基準を反映している。例えば、球形の微生物は一般的だが、ヒト並の大きさの生き物に球形はそぐわない。心理学的なことは別にして、サイズ感は拡散や流動といった物理的要因や、生き物の成長や大地の変化といった時間スケールなど、動きや変化といった要素の中にその芽が生み出されている。このSGでは身近な現象に見られる形態的パターンや動的特性を観察することで、サイズを感じ、その深層にある数理について議論していきたい。生き物らしさ、大地らしさ、海らしさなど、『らしさ』につながる特性を大きさと時間に起因するサイズ感の中に参加者が何か見つけることを目標とする。
 2019年度SG8で培ったドローン撮影技術を本SGでも活用するほか、研究室内の顕微鏡などを用いた観察も行うことで、スケールの大きく異なる現象を分け隔てなく対象とする。顕微鏡による生物組織内の動的パターニングの観察から、ドローン等による海(波、渦潮)の観察や、生き物が作る移動波として例外的に大きなスケールを持つ高山樹林の縞枯れ現象の観察を実施することで、観察対象とその構成要素や外部要因の大きさ/時間スケールを実感し、数理的考察のモチベーションを上げていきたい。
 セミナー形式で行うが、参加者のディスカッション/ディベートを積極的にやっていきたい。また、参加者は少なくとも一度はディスカッションの先導役をやってもらう。
 

活動成果・自己評価

 活動成果:参加教員によるセミナーと参加学生を中心としたドローン観測・画像データ処理を行った。新型コロナの状況が晴れない中、野外観察は理学部植物園の樹木の観察のみとなった。通年で活動を行ったが、セミナーは生物のサイズ、ミクロスケールでの生物の運動と巨視的挙動、過去のドローン観測結果(風紋/流氷塊)の再解析、ドローン観測スケールでの大気の時空間的変化など多彩な分野に及び、どのセミナーにおいても突っ込んだディスカッションがなされた。11月〜12月は植物園の樹木の多くが紅葉・落葉するため、ほぼ毎週ドローンによる観測を行い、樹木種の同定と紅葉・落葉の変化の基礎データをえることができた。今後の課題として、個々の樹木の3次元的な紅葉・落葉の様子を再構築する点が挙げられる。なお、セミナーで議論されたZ軸方向の大気温日内変動パターンが、同一樹木がZ軸方向で異なる日内温度変化を与えるため紅葉・落葉に限らず樹木の成長パターンを理解する上で重要なファクターとなり得ることを見出した点は本SGの大きな収穫となった。

自己評価:本SGの参加教員および学生は多様な分野の研究に従事しており、主に教員によるセミナーにおいては、多彩な視点からの意見を取り交わすことができた点で評価される。また、参加メンバーのドローン操作・解析技術が飛躍的に向上した点も実績となった。本SG活動と直接関係はしていないが、参加メンバーの前田玉青さんがドローンを用いた野生馬社会の革新的研究で本学の2021年度たちばな賞(優秀女性研究者奨励賞)を獲得したことはSGとしても嬉しいニュースとなった。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
小山 時隆(代表教員) 生物科学専攻 准教授
市川 正敏 物理学・宇宙物理学専攻 講師
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
宮崎 真一 地球惑星科学専攻 教授
坂崎 貴俊 地球惑星科学専攻 助教
岡本 楓 生物科学専攻 B3
明石大輝 物理学・宇宙物理学専攻 M1
秦駿斗 地球惑星科学専攻 M1
高野友篤 その他(医学研究科) D1
若林 環 地球惑星科学専攻 M1
野末陽平 地球惑星科学専攻 M1
前田玉青 生物科学専攻 D2
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 D1

 

 

[SG2021-7] 疾患における集団的細胞挙動の数理モデルの開拓

 
オンラインミーティングの様子


病理サンプルの撮影


病理画像の解析結果(黄色線:核抽出,黒線:等高線分割)
 

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活動報告

活動目的・内容

 非常にダイナミックな生命現象である「疾患」を数学・物理のテーマとして取り上げ、医学の研究グループと行っている共同研究に実際に参加することで、各自の専攻分野の知識を深めるだけでなく分野の枠を超えて研究の視野を広めることがこのSGの目的である。
 病理診断の現場においては、固定した細胞組織の染色画像を観察し、細胞の形状や配列秩序から総合的に疾患の種類とその進行度を主に経験則に従って判断している。一般的に疾患時の組織は、健常時の組織構造に比べて個々の細胞の見かけや集団秩序が乱れていることが知られているが、組織のホメオスタシス(恒常性)の乱れを定量的に解析・評価することは未開拓の課題である。このSGでは、ヒト病理画像を用いて、個々の細胞やその集団秩序構造の乱れを物理学的に解析し、これを数理モデリングとリンクさせることで定量化し、読み解くことを目指している。
 参加者は数学・物理・医学の三つの研究グループを回って、このSGで用いる解析・モデル手法や理論について講義もしくは実際のデータを前にした実習を通じて習得する。その中であがった成果や直面した疑問・問題点を全体のセミナーなどで発表・議論する。

 

活動成果・自己評価

 本SGでは,病理組織の画像を解析し,健康な組織と区別するための物理的な指標を見つけ出す,という目標を掲げ,担当教員の指導の下で参加学生が自分の手で作業を行った.今年度は子宮頸癌を中心に,毎週オンラインで集まり,議論しながら以下の新しい成果を出すことができた:
 

  1.  新たな病理サンプルを撮影し,解析の対象となる画像の数を増やした.
  2.  機械学習に基づく最新の細胞抽出ソフトウェアを援用することにより,病理画像における核抽出の効率を昨年度に比べ大幅に改良した.
  3.  昨年度に開発した等高線アルゴリズムを用いて,細胞核の特徴量を表すデータを取得し,その統計解析を行なった.
  4.  特徴量の解析結果を基に,ガンの進行度を診断するための,ランダムフォレストによる原始的な分類器を構築した.
 

 毎週定期的に集まって議論したことと,参加学生が活発にSGの作業に加わり本質的に貢献したことのおかげで今年度も研究の大きな進展があり,充実した1年間であったため,来年度も全員が参加の継続を希望している

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
Karel Svadlenka(代表教員) 数学・数理解析専攻 准教授
田中 求 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点
ハイデルベルク大学
教授
山本 暁久 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
鈴木 量 高等研究院、医学物理・医工計測グローバル拠点 助教
司怜央 その他(医学部医学科) B4
奥山 紘平 物理学・宇宙物理学専攻 M2
藤﨑 碩人 数学・数理解析専攻 M1
石川 陽 数学・数理解析専攻 M1
大谷 暢宏 その他(医学部医学科) B4
(協力:鶴山 竜昭  広島大学医学部教授・京都大学医学部客員)

 
 

[SG2021-8] コンピュータでとことん遊ぶ

 
 
  3D班作成:レイトレーシングの例
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活動報告

活動目的・内容

 このSGの目的は,学生たちにその自由な発想で計算機を活用する場,人的ネットワークを提供し形成して,コンピュータの主体的で新奇な活用のための基盤を学生たちに培うことであり,またその支援にある.このSGは,あくまで主体は学生である.
 2018年度と2019年度には、学生主体位の活動とその支援を企画の目的とした。手探りで試行錯誤が続いているが、学生による本読みや電子工作、ワークショップの開催など漸く活動のスタイルができつつある.ただし,参加者が大学1回生から大学院D3の学生まで広範であるために,課題を主体的に選んでグループワークを行うことはまだ十分ではない.教員の側の支援の具体的方法に検討が必要であること痛切に実感しているのが現状である.
 2020年度はコロナ禍対応で,原則リモートでの活動であったが,個々人がロボットや3Dグラフィックスを使って様々な取り組みを行い,月2回程度のzoomを使った打ち合わせで報告しあう活動となった.また,年度末に向けてリモートでのセミナーや電子工作のワークショップも企画中である.
 2021年度はこれまで3年間の活動を継続し、引き続き学生の自主的な活動とその支援をメインとするスタイルを続ける。
 具体的な支援として,このSGの教員にそれぞれのコンピューティングに関連した興味や手法をセミナーで提供していただき,学生の興味に応じた課題の解決へのアドバイスを行っていただく.また,積極的に学内外の専門家にもセミナー等を通して参加いただく.学生には,専用のPCや情報環境機構のクラウドコンピュータを利用した遊びの場(開発環境)を提供することを考えている.更に,積極的に学外への情報の発信や話題の提供なども行うこと検討する.
 

活動成果・自己評価

 

3Dグラフィクス&ゲーム(3D)班とFPGAを用いたコンピュータ自作(FPGA)班がそれぞれ独自に活動を行った。3D班では、3Dグラフィックスの数理や技法をオンラインゼミで学びつつ、独自にプログラミングを行って理解を深めた。更に、応用するためにゲーム作成を試み、分担してストーリー、動画、BGMに取り組んだ。FPGA班は、FPGAの原理及びプログラミングをオンラインゼミで学習し、実際にFPGAを使い基本的な動作を確認及び各種センサーを用いた応用と取り組んだ。更にクラスター化も試みた。

これらの活動に加え、ドローンの自律的編隊飛行を目指した制御系の構築にも取り組んだ。電子工作ワークショップを計画したが、半導体不足のため教材が手に入らず中止となった。

コロナ禍のため活動はオンライン中心となった。学生主体の活動であるため、オンラインでは親睦を深めにくく、とことん遊ぶところまでいかなかった。しかし、それぞれの班が当初の目標と一年を通じて取り組めたことは評価したい。

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
藤 定義(代表教員) 物理学・宇宙物理学専攻 准教授
松本 剛 物理学・宇宙物理学専攻 助教
竹広 真一 数理解析研究所 准教授
中 七海 地球惑星科学専攻 D1
糀谷 暁 数学・数理解析専攻 M1
衣笠公陽 数学・数理解析専攻 M1
今井稀温 地球惑星科学専攻 M1
正木敬梧 その他(理学部) B4
長岡 祐太郎 その他(理学部) B1
別所拓実 物理学・宇宙物理学専攻 D3
木南 武 その他(生命科学研究科) M1
笹田明伸 数学・数理解析専攻 M1
山根聡一郎 物理学・宇宙物理学専攻 M1
林 大寿 物理学・宇宙物理学専攻 D1

 

 

[SG2021-9]理学におけるデータ科学:理論と実践〜数物理論と機械学習〜

活動報告

活動目的・内容

 機械学習的手法を用いたデータ解析手法は昨今急速な発展を見せており,統計学的な学習理論がその手法の有効性の理論的な保証を与えている.それに対して本SG9では数理物理的なアプローチから再帰的ニューラルネットワークの一種であるreservoir computingの学習性能を研究した.
 統計物理を専門とする物理学・宇宙物理学専攻の博士課程学生2名と上記研究を行なった.定期的にZoom ミーティングを行い,提起された疑問点や改善点などを確認し,各自持ち帰って次回のミーティングまでに理論的な計算や学習性能評価のための数値計算を行なった.

 

活動成果・自己評価

 reservoir computing で用いるノード間結合行列としてランダム行列を用いる場合において,(1) ネットワークの定性的な性質と (2) 時系列タスクの学習性能に対する相転移挙動について詳細に調べ上げた.(1) のネットワークの性質は,ランダムネットワークを生成する確率分布に依存することがわかり,さらにネットワークサイズ無限大の極限における普遍性を我々が新たに発見した.(2) については,その確率分布のパラメータを秩序変数に用いると,統計物理で用いられる相空間と同様に時系列タスクの学習性能の相転移が確認された. reservoir computing では “edge of chaos” で学習効率が最大化されるという通例があるが,これに関するより正確な理解を得ることができた.これらの成果は学術論文としてまとめ (arXiv:2112.01886),3月23日現在査読中である.また,この成果については,日本物理学会2021年秋季大会と第24回情報論的学習理論ワークショップにおいて研究発表を行なった.
 SGの学生が自発的にかつ有機的に活動した結果,論文となる研究成果が得られた.特に普遍性理論の整備は物理が専門の学生抜きには得られない物であり,数学,機械学習と物理の協働が結実したと言って良い.本格的な研究を志向した本SGとしては大成功である.さらに京都大学のスーパーコンピュータを活用するノウハウや Jupyterを用いた資料の作成等の技術習得は,学生らにとっても今後大いに役立つであろう.

 

参加メンバー

氏名 所属 職名・学年
中野 直人(代表教員) 理学研究科 連携講師
兎子尾 理貴 物理学・宇宙物理学専攻 D2
春名 純一 物理学・宇宙物理学専攻 D2
 

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