数学・数理解析専攻(数学系)・教授 加藤 周
私の専門は幾何学的表現論です。表現論は対称性として回転や並進全体などから生じる群などの代数を固定し、それを行列を用いてベクトル空間に実現(表現)し、さらに異なる表現を分類する分野です。高校数学の回転行列の複雑版で、考え方は結晶の分類に近いものです。その中で幾何学的表現論は表現をベクトル空間(=ユークリッド空間)という平坦な空間ではなく曲がった空間である多様体にうまく実現する小分野です。それにより一般には無限次元(行列サイズ無限)である表現の構造をよりサイズの小さい(有限次元の)多様体を用いて精密に理解できるという効用があります。
巨大な対称性の性質を有限次元の多様体に押し込めると異なる対称性の解析が同じ多様体の解析に帰着することがあります。抽象化された対称性自体がその異なる実現同士を結ぶものであったことと相まり、幾何学的表現論は異なる対称性を繋ぐ強力な手法を提供することがあります。例えばAlday-Gaiotto-立川予想という物理由来の予想のShiffmann-Vasserotによる解決(2012)では幾つかの異なる文脈の対称性が一致したり幾何学的操作で繋がるという考察に準拠しています。
私自身は各種対称性の性質を反映する良い多様体や枠組みを探すとともに、その応用を探っています(例:下図)。数年にひとつ新しいクラスの多様体とその世界を展開するという感じです。あまり知られていないけれど個人的に気に入っている応用には反射壁付きデルタ関数ポテンシャルを持つ1次元多粒子系の二乗可積分解の分類(2011)やグラフの不変量である彩色対称多項式のアフィン・グラスマン多様体による実現(2024+)があります。後者はここから分野の有名未解決問題を解こうと思ったら、それを聞いた元学生に解かれてしまいました。ちょっと悲しいし、ここの教授としての仕事さえなければとも思いましたが負け犬の遠吠えです。でももうちょっと研究時間は欲しいです。
図 旗多様体の量子K群にまつわる三位一体とその関手性