物理学・宇宙物理学専攻(物理学第二分野)・准教授 成木恵

 
 

今回コラムを執筆させて頂くに当たって、何を書こうかと考えた。ふと思いついたのが、私の出身研究室のことだった。今につながる研究の母体として、少し当時の様子を振り返ってみたい。

今から20年ほど前、我が専攻にあった素粒子物性研究室に進学した。政池明教授、延與秀人助教授、舟橋春彦助手という体制だった。その年は政池さんがあと1年で定年というタイミングで、私は当研究室の末っ子に当たる。研究は素粒子実験、原子核実験、宇宙線観測あるいは中性子の基礎物理など広い分野にまたがり、いくつものプロジェクトが動いていた。違う実験の話を聞くのは大きな刺激になった。先輩達は皆とても元気で、いろんな場面で実にたくさんのことを教わった。夜通しボードゲームをしてすっかりはまってしまったこともある。海外からのゲストも多く、そんなときに政池さんにつかまると、今からちょっと英語で自分の研究紹介をしなさいと言われ、汗をかきながら説明をしたものだった。しかし一番大きかったのは、真摯にサイエンスするという態度を学んだことではないかと思う。これは今でも、研究者にとって大切なことだと思っている。

今日ではハドロン物理学という分野が確立しているが、当時は、素粒子と原子核の間にありどちらとも分類できないような物理に興味がある人達が集まっていた。まさに、素粒子の物性学という新しい潮流を拓き、現在のハドロン物理研究の礎となったのではないかと思う。そのような場にいられたことは私にとって幸運だった。
その後、再編で研究室はなくなり、現在の原子核・ハドロン研究室へと引き継がれている。ちなみに、素粒子物性研究室という名前は、一期生であった清水裕彦さんによって名大で今も生きている。