附属地磁気世界資料解析センター・教授 松岡 彩子
私は地球や惑星の電磁気現象を専門とし、地球や惑星周辺で計測した磁場データを解析して研究している。必要な精度の大きさは地表の地磁気の10万分の1。性能の良い計測機器が必要なのは当然であるが、いくら機器の性能が素晴らしくても、元の測りたい磁場が「汚染」されてしまっては意味がない。磁力計の近くには、間違っても人工的な磁場を出すものを置いてはいけない。例えば、電気回路実験で良く使うミノムシクリップは、絶対に磁気センサの近くで使ってはいけない。
このため、磁場の計測やその準備の試験の際には、機器の支持具や近傍で使うものを徹底して非磁性材で揃える必要がある。少しでも油断すると、磁場を出すものは容易に機器の近くに入り込み、折角のデータをだめにする。きちんと実験する時にはアクリルや樹脂、セラミックを使うのだが、ちょっと試すときには磁石を持ってDIYショップへ行き、これと思うものを磁石につかないことを確認して買ってくる。この結果、実験室には木の板、レンガ、発砲スチロール、塩ビ管など、一見すると理学の研究と関係が無さそうなものの山が出来る。
センサを組み立てる道具にも気を遣う。一般的なねじはセラミックドライバで回すが、非磁性材製が市販されていない種類の器具の場合には、アルミやチタンで専用器具を作ることもある。センサの水平を取るための精密水準器は、業者に特注してアルミの削り出しで作ってもらった(通常はステンレス)。センサの微調整をする時に重宝するのは、「つまようじ」。磁場を出さず、適度に柔らかくてセンサを傷つける心配もない。こんなものを磁気センサの調整に使うのは私だけかと思っていたら、同業のドイツ人に「日本のつまようじは溝があって滑らなくて使いやすいね」と言われ、つまようじの持つ国際性に驚いた。