生物科学専攻(植物学系)・准教授 小山 時隆
私は『時間生物学』を専門としている。一日や一年という周期的環境下で生き物が適応的に過ごすための戦略やその仕組みを主な研究対象としている。体内時計の働きや時差ボケなどは身近な関連現象である。2017年のノーベル医学生理学賞が生物時計の研究者に授与され、この分野も少しは世間に知られるようになってきた。
さて、私は講義の中で『時間』について話をすることがあるが、学生に対しては『時間について考えすぎるな』と釘をさしている。『時間そのもの』のように普遍的だが理解できないことを意識し続けるのは、時間の浪費とまでは言わないまでも、その行為で生産性があがることは決してない。そのような思索は哲学者にでも任せるべきだ。哲学者のカントは『時間は内的な直観の形式』と説いているが、確かに『時間』を深く見つめていくと、『内側』・『内向き』なイメージが湧き上がる。
話を生き物に戻すと、生き物の世界は環境という『外側』と、生き物という『内側』とのつながりにその本質があると思う。『内側』という点で、生き物と時間の相性は悪くなさそうだ。ここで言う生き物は、環境に応じて自発的に動作しているように見える構造体であり、個体でも細胞でもよい。細胞はすべての生き物の基本構成単位だが、多くの生き物で個々の細胞が一日周期の時計を持っていることが知られている。細胞が自分自身の時間を持っているのだ。一日に限らず、細胞は様々な種類/スケールの時間を同時進行的に利用している。細胞が『時間』について思索に耽ることはなさそうだが、細胞は時間の使い方を知っているのだ。生き物が知っている『時間の使い方』を理解したいと毎日考えを巡らせている。妙案はなかなか出てこないが、『時間そのもの』と違って、『生き物の時間』への思索は科学の道筋に沿って流れ、心地よい時間を私に与えてくれる。