京都大学大学院理学研究科・教授 土`山 明

 
 

太陽系だけでなく宇宙において、元素がどのような割合で存在するか(元素の存在度)は、宇宙の成り立ちと星の進化に伴う元素の合成によって決まっている。太陽系の元素存在度は、太陽大気の分光スペクトルと隕石の化学分析をもとにして求められており、元素合成理論とも整合的である。地球をはじめとする固体惑星をつくる元素もこのルールに従っている。マグネシウム(Mg)、珪素(Si)、鉄(Fe)、硫黄(S)は太陽系全体では約0.01%を占めるに過ぎないが(約90%は水素)、酸素(O)と化合して、固体物質の約90%を占めている。具体的には、かんらん石 (Mg,Fe)2SiO4、(Caに乏しい)輝石 (Mg,Fe)SiO3といった珪酸塩鉱物や金属鉄および硫化鉄(FeS)が常温常圧で安定な鉱物である。実際、これらは隕石の主要構成鉱物であるとともに、かんらん石や輝石は地球の上部マントルの主要構成鉱物でもある。

 

太陽系を含めた宇宙における元素組成はほぼ理解されているのに対して、「どのような固体物質が星の周囲で作られ、星間空間に放出されてどのような変成を受け、その結果どのような物質が太陽系の固体原材料物質となり、現在見られる固体物質になったか」という太陽系・宇宙の物質の具体的な理解は、それほど進んでいるわけではない。このためには、隕石や宇宙塵の分析とともに、太陽系外の星周塵や星間塵の天文観測が重要である。星周塵や星間塵の赤外観測により、かんらん石や輝石が見出されるとともに、非晶質珪酸塩が主要な構成物質であると考えられている。また、宇宙・太陽系における固体物質の生成・進化モデルを設定し、その生成・進化プロセスの再現実験をおこない、分析や天文観測と比較することも大切である。我々の研究グループでは、隕石や宇宙塵の3次元構造に着目し、その分析をX線や電子線CTを用いておこなうとともに、生成・変成プロセスとしてガスからの凝縮や粒子線照射についての室内再現実験をおこない、太陽系・宇宙の固体物質の系統的な研究を始めている。

 

地球に落下する宇宙塵の一部は彗星を起源としていると考えられている。一方、はやぶさ計画により小惑星イトカワから持ち帰ったサンプルの分析により、隕石の小惑星起源が最終的に確証された。これらの惑星になれなかった小天体の構成物質は、太陽系形成時の情報を持っている。彗星塵にはGEMSと呼ばれる、Fe-Ni金属や硫化物の包有物を含む球状の非晶質珪酸塩の粒子(数100 nm)が特徴的に含まれており、太陽系の固体原材料物質候補である。これは星間塵の赤外観測とも整合的であるが、一方で、酸素同位体分析に基づきGEMSは太陽系形成時に凝縮したという説も有力である。我々は、TEM-CTによりGEMSの3次元構造を明らかにするとともに、実験室でその再現実験に成功し、GEMSが高温ガスから凝縮によって生成されたことを示した。

 

隕石には炭素質コンドライトと呼ばれる有機物や水を含む始原的なものがある。この隕石の多くは水質変成を受けているが、水質変成をほとんど受けていない最も始原的な炭素質コンドライトの存在が近年知られるようになった。我々はこの隕石について、X線CTによる3次元構造分析やTEM分析を行い、GEMSの類似物質がこの隕石にも含まれることを明らかにした。しかしながら、詳細な分析結果は彗星塵の構成物とは完全に一致せず、類似した、しかしやや異なるプロセスによる(パラレルワールドの)産物であると考えている。また、放射光を用いたX線CTにおいて、吸収および位相コントラストより、鉱物だけでなく有機物や液体の水の3次元分布を得る手法を開発した。この手法をさらに発展させ、はやぶさ2計画により2020年に地球に持ち帰られる予定の小惑星リュウグウのサンプルから、液体の水を見出したいと考えている。

 

イトカワサンプルの分析により、小惑星表面では太陽風などの粒子線(主にHやHe)照射による宇宙風化(結晶の非晶質化とナノ鉄粒子の析出)が起こっていることが明らかにされた。類似した宇宙風化が星間空間でも起こっていると考えられる。このような変成プロセスを再現するために、新しい粒子線照射装置を開発し、実験を開始したところ、イトカワ粒子に見られたものとそっくりな宇宙風化層を再現することができた。

 

ここに述べた研究は系統的には始まったばかりであるが、非晶質珪酸塩粒子が太陽系形成時にガスからの凝縮で生成され、一部の星間塵としての非晶質珪酸塩とともに彗星物質や最も始原的な小惑星物質を作ったと考えている。今後、さらなる研究を進めることにより、太陽系の固体原材料物質、すなわち我々のご先祖さまのルーツを明らかにしたい。