生物科学専攻(植物学系)・教授 長谷あきら

 
 
 

植物が敏感に光刺激を感知できることは、古くから知られている。その良い例が光屈性である。窓際においた植物が、光の方向に茎や葉を曲げることを多くの方は目撃したことがあると思う。生物学の発展により、このようなマクロレベルの応答を支える細胞/分子レベルの機構が次々と明らかにされ、細胞内で光受容体分子が様々な遺伝子の発現を制御する仕組みが明らかにされつつある。

 

動物とは色々な意味でその内容は異なるが、植物の体も様々な組織や器官から成り立っている。我々は、性質の異なる細胞によって組み立てられた植物個体において、個々の細胞が示す細胞/分子レベルの応答が個体の応答へどのように統合されるのか、という問題に興味をもち研究を進めてきた。

 

遺伝子操作技術を用いれば、光受容体を意図した部位でのみ発現させることができる。我々がこの技術を用い調べたところ、光受容体の種類によって働く組織(細胞の種類)が異なること、異なる組織間に未知のシグナル伝達が存在することなどが分かってきた。また、部分光照射や微細手術などの古典的なアプローチに、網羅的遺伝子発現解析という最近の技術を組み合わせることで、植物ホルモンや未知のシグナル伝達物資の動きを捉えることが可能になりつつある。

 

神経という長距離通信手段や脳という中央情報処理器官を持たない植物が、どのようにして自律的な細胞応答を統合し高次の応答を実現しているのか、興味はつきない。この分野の益々の発展を期待するところである。

 
図:ダイコンの芽生えの光屈性。青色光を左より照射して約24時間後に撮影。