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第2回

三輪:どうもありがとうございました。さて、これからですが、昔を思い出しながらでもいいですし、あるいは最近のこと、授業などで出会う新入生を見てということでもいいですし、どんな形でもいいので、新入生に一番言いたいことを言っていただこうかと思います。

福田:京大の理学部の人はわりとシャイなところがあって、あんまり偉そうなことは多分言わないだろうと思うんですけど…。ですから、まあ、こういう人もいるということで聞いてもらえばと思います。私は、自分を振り返ってみても、学生の時にものすごく何かをやりたかったというようなことはなかったと思うんです。大学に入った時に最初から地球物理かっていうとそういうわけでもないんですが、わりと興味があったことは確かです。多分平島先生も同じ年代なんですけど、ちょうどその頃「日本沈没」というような話がありましたし、プレートテクトニクスということも60年代から70年代のはじめに本格的になってきました。その頃から、プレートが本当に動いているかどうかということが実測できるようになってきました。そういうことがあって興味はあったんですが、じゃあ地球物理をやろうかとまでは、入学した時にはあまり思えなかった。むしろどちらかというと物理などの方に興味がありました。ただ、今もそうですが、当時も興味が広くて、学部に入ってからいろいろ面白そうな講義をとにかく聞きに行くということはやっていました。そうしているうちに、3回生の時に私が重力について面白いなと思ったのは、すごく単純で、重力を測るということです。重力を測るのに重力計というのがあって、重力は地球の中心から遠くなると小さくなるので、高いところでは小さいんですが、1cmか2cmくらいの高さの差が検出できるんです。わずか1cmや2cmの差で重力の違いが測れるというのは、それだけでけっこう面白かったんです。それで、そういうことをやろうかなと思うようになりました。その後、いろんなことをしましたが、最終的にまたそこに戻ってきてしまった。やっぱりどこか性に合っているところがあるんでしょうね。だから、最初から決めてというよりは、何かいろんなことをやってみているうちにそういうのが見つかるんじゃないかなという気がします。最近の学生さんを見ていると、何かやると言ったらそれ以外のことに見向きをしないということがけっこうあります。「私はこれをやるので、そこは関係ないからやりません」とかいうことなんですが、そういうのが非常にもったいないなと思います。できるだけ、関係ないことにいろいろと首を突っ込むということも悪くないと思います。特に1回生や2回生のときに、あるいは学部でずっとそんな風にしていて、あるいは大学院に行って、またあるいは就職して分野が変わるというのも良いんじゃないでしょうか。それで、最終的にはやっぱり最初に面白いなと思ったところに落ち着くのも良いし、また、別のところに行ってもよい、というのが、何十年か経っての感想です。私も途中いろいろなことをやりました。就職してすぐは、電磁気のことをやったり、地震をやったり、リモートセンシング(衛星のデータ解析)をやりました。最初、就職する時に取ってもらえたのは、その頃あまり誰もやっていなかったコンピューターグラフィックをやっていたからだったということもありました。そんなことがいろいろとあって、それは非常にいい経験でしたし、最終的にどこかに落ち着く。いわゆる理学部の「緩やかな専門化」というのはまさにそうだろうと思うんです。いろんなことをやるっていうのは楽しいことなので、是非、楽しいことをしてくださいと思うのです。私が学生さんに一番望むのはそういうことです。

三輪:今日はまったく正反対の話が出るというようなことも想定していますので、ご自由にどうぞ。

平野:京都大学の理学部というのは必修科目が基本的にないわけなので、できれば、その自由度をうまく活かす形でいろんなことを積極的に学んでほしいと思います。そうすると、ここはいろんなことが得られる学部だと思います。この学部が持っているもともとのポテンシャルを活かしていただくのが一番いいと思います。ただ、自由度が多いということはけっこう負担にもなる。「これをやってくれ」と言われればやれるけれども、いろいろある時に自分で選ぼうとして、何を選ぶのが良いか分からなくて何もしない、というようなことに陥ってしまう心配があります。自由度が大きいために、講義等に関しても、なかなか、これを取れば良いのだというのが見えないということもあるかもしれません。だから、よく考えて積極的にやりなさいっていうのが、人によっては負担になるかもしれないと、多少心配しているところです。人によって、どういうメッセージを伝えれば良いかというのは、やはり違うと思います。すごく積極的な学生には「それを活かしたらいいでしょう」と言える。ただ、すごく積極的でいろいろ手を出すけれども、なんか十分身に付いていないような学生もいるので、そういう方には「もうちょっと腰を据えてやったら」という気になります。逆に、自由度があまりにも大きくて戸惑っている学生に関しては、ある程度枠をはめてあげたほうがいいのかな、と思うこともあります。それぞれの学生さんによって、かける言葉は変わってしまうので、なかなか難しいです。そういうわけで、私自身のことを話すことにします。私は、今は生物系ですけど、もともとはどちらかというと物理とか数学の方が好きだったのです。ただ、それは高校のレベルでできたという話です。大学の試験は、物理と地学で受けました。

平島:わあ。すごい。

平野:どうして地学を選んだかというと、教科書が薄かったのが大きいです。生物はいっぱい覚えなきゃいけないことがありましたから。私は今は生物をやっていますけど、たとえば植物のことは分かりません。センター試験の生物を受けたら、まあ70点くらいでしょうね。マクロ系の問題も解けないでしょうし。ということで、私はもともとは物理、数学だったんですよ。ただ、数学をやり出してみると、「これはあかんな」と思ったんです。それは、一つはやっぱり私の能力の問題があるんだと思います。もう一つは、後から考えてみると、多分教師が悪かったんです。これはかなり確信を持っているんですが。まあ、そういうこともあるんで、世の中、フレキシブルに考えてやっていったほうがいいだろうなと思います。ただ、ある時期になってから、何がやりたいかなということを自分でけっこう真面目に考えました。いろいろ考えていくうちに、自分の頭の中がどうなっているか知りたい、やっぱりこれは大きな問題だろうと思いました。ただ、私が入学した頃は、脳っていってもちょっと複雑すぎて、半分哲学みたいな話になっていて、これは嫌だなと思いました。なので私は、わりと単純なシステムというか、きっちりと基本原理みたいなものが分かりたいなと思って、そういう方向でやってきたわけです。それを決めてからは、私自身はあんまり迷わずに、そのために必要なことを学んできたという感じです。それで、学生さんに言いたいことという話に戻りますが、たとえば大学の同級生とか同僚の研究者とかを見ていると、他の分野でもそうかもしれないですが特に生物系の場合に感じるのは、いわゆる頭の回転の良さということよりも、むしろ粘り強さ、諦めない、という要素が大きいような気がします。あともう一つはフレキシビリティだと思います。自分にとって必要となったことに関して、どんどん新しいことを学んで知識を増やして、それを取り入れて行くということができる人が成功するんじゃないかなと思います。だから、その時々に「これだけのものがなきゃいけない」ということはない。ただやっぱり基礎はある程度は欲しいんですけど、その後はそれに関係する分野に恐れずにアタックしていける姿勢が大事だと思います。本当は、そういった意味で、自由度の高いところではそれを活かしてやっていくと、どんな状況にも耐えうるというか、対応できるような人になっていけるんじゃないかなということもなんとなく感じています。ただまあ、けっこうハードルが高いことなので、自分でこんなことを言ってても「お前できてるのか」とか言われると、ちょっとなあ~とか思うんですけどね。まあ、そういうようなことを考えています。

 


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