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第2回

aruga.jpg (180×223)有賀哲也 教授

有賀:はい。私の研究分野は、一応フォーマルには、表面化学っていう名前がついています。主に固体の表面におけるいろんな現象を調べるということです。この分野について新入生向けという路線でお話ししますと、歴史をずっと遡ると18世紀か19世紀くらいに、ワインに白金線を入れるとワインの中のアルコールが低温で燃焼するっていうことを見つけた人がいたんです。もちろん、ワインに普通に火をつけようとしてもつきませんが、白金線の表面では、アルコール分子が空気中の酸素とより効率よく反応して、酸化反応、つまり燃焼反応が起こるんです。それがいわゆる触媒反応の、最初の頃の例です。そういうのがそれからいろいろ見つかりました。白金でも他のものでも触媒になるんですけど、その表面で、実際にはじゃあ何が起きていてそういうことになるのかというのが、触媒化学という学問です。それがずっと続いてきたんですが、100年以上経っても、実はあんまりよくわかりませんでした。それが20世紀の後半ぐらいになって、もうちょっと原子とか分子のレベルで色々調べようっていう動きがありまして、真空の中で表面現象を非常に精密に調べるという学問が発達した。それが表面化学の一つの流れです。もう一つは、もうちょっと物理現象寄りの流れです。表面科学の分野で、アメリカで非常に歴史のある国際会議があるんですけど、それがフィジカルエレクトロニクスコンファレンス、つまり物理エレクトロニクス会議っていうんです。僕は最初学生の時、どうしてそれがエレクトロニクスなのか、よくわからなかったんですが。20世紀のはじめぐらいに真空管とかいうようなものが作られるようになりました。真空管っていうのは、真空の中で電子を放出して、それを、電場で変調したりして、色々エレクトロニクスをやるんです。そういう時に、その電子放出源からどうして電子が出るのかとか、どうしたら出やすいのかとかいうことが問題になったわけです。たとえば熱電子放出。これは要するに、金属の温度を高くしたら電子が出るという現象です。その他には、たとえば強電界をかけることで電子が出たり、光をあてることで電子が出たりします。これはアインシュタインの光電効果ですね。これらはみんな表面の性質が関係した現象なんです。そういうようなことを出発点に、表面の物理的な性質について調べるっていう学問が発達してきました。それは、表面物理って言われたりします。表面化学と表面物理は手法的には非常にオーバーラップしていて、問題点もかなり入れ子になっているので、だからそういう意味では、まとめて「表面科学」(surface science)って呼ばれています。僕はそういうところの研究をしています。それで、じゃあ具体的には何をやっているのかっていう話ですが、僕自身は化学寄りのことも物理寄りのことも色々やりました。ごく最近やっているのは、結晶の表面での電子の動きに関係することです。電子はスピンという性質を持っていて、そのスピンは磁石を使うと分けることができます。磁石を使わないと普通は分けられない、というか分けにくいんですが、結晶の表面の物理的な性質を使うと、電子のスピンをいろいろもてあそぶというか制御することができそうだという話が最近あって、そういうことに関係する研究をしています。

三輪:はい。ありがとうございました。

 

 

 

 


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