物理学・宇宙物理学専攻(物理学第一分野)・准教授 米澤 進吾
超伝導は、一言で言うと電気抵抗がゼロになる現象ですが、その中に色々な種類があることをご存知でしょうか。超伝導を分類するのに一番標準的な方法では「対称性」に着目します。全ての超伝導体では基本性質として「ゲージ対称性」が破れていますが、これ以外の対称性も破れるかどうかで超伝導を分類できるのです。例えば、時間反転対称性(時間を逆に回しても同じに見えるかどうか)の破れた「カイラル超伝導」などが知られています。
最近、超伝導の新種ともいえる「ネマティック超伝導」(図1b)[1]が見つかりました。これは、本来等価な方向なのに超伝導を形成する強さ(専門用語でいうとギャップの大きさ)が異なるという、「回転対称性の破れた」超伝導です。この状況は、言い換えると、超伝導電子が流動性を持ちつつも特徴的な方向を有していることを意味し、液晶分子が整列しつつ流動性を保っている「ネマティック液晶状態」(図1a)によく似ています。このためにこの新種の超伝導はネマティック超伝導と呼ばれているのです。
5年ほど前に、我々を含めた幾つかのグループが元素ドープしたBi2Se3でネマティック超伝導を発見しました[2]。これらの実験では物理量を磁場方向の関数として観測し、その振舞いが結晶の回転対称性と合致しないことからネマティック超伝導性が実証されました。さらに我々は、ネマティック液晶が高い制御性を持ち広く応用されていることとのアナロジーから、ネマティック超伝導を制御するという着想を得ました。実際、試料を特定の方向に圧縮することでネマティック超伝導の作るドメイン構造を能動的に制御することに最近成功しました[3]。
このように、超伝導分野で発見された「新種」の研究は大きく広がりを見せています。
[1] レビューとして、S. Yonezawa, Condens. Matter 4, 2 (2019); 俣野・米澤 日本物理学会誌 2018年2月号。
[2] K. Matano et al., Nature Phys. 12, 853 (2016); S. Yonezawa et al., Nature Phys. 13, 123 (2017); etc.
[3] I. Kostylev, S. Yonezawa et al., Nature Commun. 11, 4152 (2020).
図1:ネマティック液晶とネマティック超伝導の比較。
図2:ネマティック超伝導ドメインの結晶ひずみによる制御[3]の解説。