コラム『バックヤード』

コラム『バックヤード』

地球惑星科学専攻(地質学鉱物学分野)教授 生形 貴男

 
 

私は古生物学を専門としているので、毎年のように化石試料を採集に出かける。採集した試料を処理して、それらの中から自分の研究に必要な化石を抽出する。使用した化石は論文出版と同時にしかるべき機関に登録・保管するが、その研究で使用されなかったその他の試料も、将来別の研究(他の研究者によるものも含む)に供するために捨てずに保管しておく。それらが長年蓄積すると、やがて標本庫に大量の未登録試料が積み重なることになる。

 

そうした未登録試料についても、リストを作って公開していれば、外部の機関の研究者に利用してもらいやすいに違いない。しかしながら、そうしたリスト作りには、下手をすると研究に要する以上の時間がかかる。種同定など専門性を伴う作業のため、アルバイトを雇って人手を確保すれば済むという話でもない。かくして、世界中の各機関の標本庫に、膨大な量の検索不能な未登録化石試料が備蓄されている。

 

こうした現状の打開に人工知能を上手く活用できないかと考えるのは私だけではあるまい。専門性を要するのに創造的ではなく、有意義だが論文業績に直結しない仕事は結構あるものだ。そのような仕事こそAIが担うに相応しいと思われる。実際に、深層学習の技術を利用した種同定の研究が近年急速に進んでおり、生物グループによっては高い正答率を出せるAIも生まれつつあるようだ。

 

機械学習の技術によって自分の備蓄試料が有効に活用されるのは大いに結構なことだが、各試料の様態と利用実績を教師にして学習したAIが、試料の保管・廃棄の意思決定までやりだしたら大変だ。学術的な新奇性が長年見向きもされなかった試料に光を当てることも少なくない。その一方で、標本庫から無秩序に溢れた岩石・化石が他の空間を侵蝕して顰蹙を買うようでは、試料の保管に理解を得るのは難しい。備蓄試料を新たな研究の苗床として活用するためには、まず我々人間が知恵を絞る必要があるだろう。