生物科学専攻(植物学系)・教授 布施 静香
野生植物の系統分類を専門とする私にとって各地での野外調査は欠かせない。せっかく現地を訪ねるのだから、できるだけ多くのものを見聞きし、植物に関わるさまざまな体験をしたいと思っている。その一つが「食」だ。植物は私たちに多くの恩恵をもたらしてくれるが、「食」はその中でも特に身近な存在であろう。
タイを訪れたときのこと。調査の道中、現地の研究者と立ち寄った食堂で米の麺の上に緑の葉が添えられていた。ホウレンソウのような食感で癖もなくとても美味しい。何の葉か尋ねると「グネツム」だという。グネツムは植物分類学の教科書に必ず登場する有名な裸子植物で、以前は被子植物の祖先と考えられていたこともある。種子が食用になることは知っていたが葉を食べるとは知らずとても感激した。また別の日にはカレーの中に輪切りのバナナの若い花序が入っていた。これも美味しい。思わず解剖して雄蕊や雌蕊を取り出し皿に展開した。花の構造を語りながら味わう忘れられないランチとなった。
ミャンマーでは、長さ60センチほどもある立派なジャックフルーツを調査隊で一つ購入した。可食部を取り出す作業を一緒にさせてもらうことになったのだが、これがなかなか楽しい。まずはナイフと手に油を塗りたくる。果実を割り、種子のまわりにある仮種皮と果肉を素手で取り出していく。ジャックフルーツはイチジクと同じクワ科の植物で、体内に乳管をもち、傷つけると白い乳液を出す。この乳液が手やナイフに付くと強い粘りが残りなかなか取れずに閉口するのだが、あらかじめ油を塗ることで防げるわけだ。私はこれまでクワ科の野生植物を採集する際この乳液にしばしば手を焼いていたが、この時初めてその対策方法を知ったのである。
国内外を問わず、初めての場所には必ず植物との新しい出会いがある。学問的な発見だけでなく、心躍る出会いが数えきれないほどある。世界は多様な植物で満ちている。その一つひとつの魅力をこれからも全身で感じて行きたいと思う。

