京都大学理学共創イノベーションコンソ―シアム

 理学研究科は令和5年9月に「京都大学理学共創イノベーションコンソーシアム」を設立し、その記念式典を10月16日に開催しました。その翌日の17日には第1回サイエンス講座を開催し、実質的な活動を開始しました。

 このコンソーシアムは、学位取得者が研究者以外にキャリアパスを拡大することで学生たちの博士後期課程進学意欲を高めたいという前理学研究科長の國府寛司理事の発意を受けて北川宏副研究科長が中心となって検討し、このたび設立に漕ぎつけたものです。検討に着手してから設立までに要した期間は1年半。その間、いろいろな企業の経営層とのヒアリングを進め、コンソーシアムの制度設計や活動内容について検討を重ねました。

 本コンソーシアムでは産業界と連携して高度科学人材育成の好循環とイノベーションの共創を目指します。高度科学人材である学位取得者は、グローバルな競争を展開する産業界にとっても貴重な存在です。そこで本コンソーシアムでは、産業界と連携して博士人材育成の推進を目指します。また、理学とは好奇心に突き動かされて発展する学問ですから、一見社会課題の解決を目指す産業界の研究開発とは無縁に見えます。しかし理学は基礎科学であるがゆえにその知識や発想はイノベーションを創出する大きなポテンシャルを秘めています。本コンソーシアムでは産業界が取り組んでいる社会課題の共有を図ることでイノベーションの共創を目指します。

設立記念式典

 設立記念式典は京大オリジナル株式会社との共催で百周年時計台記念館にて開催しました。会員企業10社のうち9社から17名、個人会員1名、京都大学からは理学研究科26名を含む36名が出席し交流を深めました。

 第一部では田中耕一郎理学研究科長の挨拶の後、國府寛司理事および北川宏理学研究科副研究科長がそれぞれコンソーシアム設立の趣旨、京都大学の魅力について紹介しました。引き続いて会員企業7社から本コンソーシアムに期待することと題してスピーチをいただきました。各社の掲げる将来像の実現に向けたバックキャスティングに理学研究科ならではの視点と発想を期待する声が多く寄せられました。

 その後会場をレストラン ラ・トゥールに移し、湊長博総長の挨拶と乾杯で第二部をスタートしました。総長は欧州の名門大学の例を挙げ、基礎科学に取り組むと同時に産業界との連携を目指す本コンソーシアムへの期待を語りました。その後会員企業2社のスピーチ、平島崇男大学院教育支援機構長の挨拶、最後に久家慶子理学研究科副研究科長の挨拶で第二部を閉会しました。

田中耕一郎研究科長の挨拶(第一部)
第一部風景
湊長博総長の挨拶(第二部)
第二部風景

第1回サイエンス講座「天文学のフロンティアと技術開発」

 第1回サイエンス講座は北部総合教育研究棟益川ホールでハイブリッド形式にて実施しました。会場には13人が集まり、オンラインで42人が参加しました。

 サイエンス講座は、午後の半日をかけて、ある研究分野について基礎的な内容から最新の話題までまとまった内容を提供するもので、科学教養を深めることを目指す企画です。それは京都大学理学部がその前身である理工科大学設置以来大切にしてきた、広く基礎科学を学ぶことが大きな成果を生み出すという考えと軌を一にします。その一方で、理学研究を支える技術開発やデータ解析手法を意識的に取り上げることで、理学と産業界の接点作りを図ります。

 第1回のサイエンス講座は天文学を取り上げ、3コマの講演を行いました。最初は物理学宇宙物理学専攻 宇宙物理学教室・附属天文台 太田耕司教授による「時間軸天文学とせいめい望遠鏡」と題する講演でした。様々な時間軸の天体現象の紹介と突発的な天体現象にすばやく対応できるすばる望遠鏡の特長などを分かりやすい図と写真を使って説明しました。2コマ目は宇宙物理学教室の栗田光樹夫准教授による「せいめい望遠鏡の開発と社会還元」と題する講演で、せいめい望遠鏡に取り入れられている分割鏡の開発と遺伝的アルゴリズムを使った軽量化について、開発者ならではの詳しい講演を行いました。最後の1コマは附属天文台長の横山央明教授が「宇宙プラズマ現象のシミュレーション研究最先端」という演題で太陽のフレアについて磁気リコネクションモデルの説明などを行いました。

 講演終了後のアンケートでは、まとまった天文学の話を聞いたのは初めてであったが大変面白かった、今後も理学研究のいろいろな分野の話を聞いてみたい、という声が多数寄せられました。

「コンソーシアムの最初のサイエンス講座が天文学で大丈夫かな」(太田耕司教授)
「せいめい望遠鏡のフレームや分割鏡の開発にざっと10年かかりました」(栗田光樹夫准教授)
「スーパーコンピュータが計算している間、他のことをやります」(横山央明教授)