生物科学専攻(植物学系)・教授 野田口 理孝

 
画像
notaguchi

人類活動に起因する環境変動は、地球上の生物生態系に大きな影響を与えてきました。植物は太陽エネルギーを吸収し、水分と空気中の二酸化炭素を糖やデンプンといった炭水化物というかたちの化学エネルギーに変換してくれる、地球上の生命を支える重要な存在です。
 森林は建築の材料やエネルギー資源として利用されます。1万年ほど前から食べ物となる植物を育てる農耕をはじめたことで、社会はこれほど繁栄することができました。このように植物資源は私たちの生命の源であり、未来も継続的に共栄していくことで私たちの安全を築くことができます。私はそんな植物の優れた生物システムを理解し、積極的に共栄するための手段を提供していく科学を展開したいと思って研究を進めています。ゲノム情報を駆使した分子生物学を起点とし、異分野領域の技術を時として巻き込みながら研究を進めています。
 2020年には異科接木の現象を発表しました。科の異なる2種類の植物をつなぐ手法です。416科からなり約26万種が知られる被子植物。それらの多くと潜在的に接木できる可能性を秘めたタバコ属植物を発見し、その突出した能力を調べています。驚くほど多彩な生命現象が見つかってきており、植物が進化的に獲得してきた細胞接着因子、ストレスを緩和するオートファジー、ゲノム上に獲得した外来生物に由来するであろう短い遺伝子群、さらには植物体内を情報シグナルとして長距離輸送され個体全身の協調的な働きを助けているmRNAやタンパク質の存在が明らかになってきました。細胞・組織の観察や植物の生理実験から見出される生物現象を、分子生物学の技術を動員して詳細に解明します。微量分析によるデータを集積し、情報科学の手法を用いて現象のコア構造を分析します。実験を精密かつ均一に行うためのマイクロデバイスを作成して研究を加速させます。こうして得た知見を社会で活用するための大学発ベンチャーも立ち上がり、産学連携も推進しています。今後どんな発見があるか、私自身とても楽しみです。