物理学・宇宙物理学専攻 田中耕一郎教授(兼・iCeMS連携主任研究者)が、2018年度 仁科記念賞を受賞しました。

対象となった業績は、「固体におけるテラヘルツ極端非線形光学の開拓」 
(“Development of extreme-nonlinear terahertz optics in solids”) です。

 

 

田中教授は、機能性電子材料の光学特性の評価、光照射による機能発現、および新しい分光手法による機能発現ダイナミクスの研究等の光物性研究に取り組んできました。

 

1996年の日本物理学会50周年記念特集において豊沢豊氏が述べていますように、光物性研究は、物質存在様式の理解を、基底・励起量状態を含めたより立体的な視点から深めていく使命を担っています。

 

田中教授は、京都大学においてテラヘルツ領域(周波数1011 Hz ~ 1013 Hzの領域)の光物性研究に取り組み、時間領域全反射分光法やシングルショットテラヘルツ分光(共に2004)などの新奇な測定手法を世界に先駆けて提案・実証し、非接触で電気伝導度や誘電率を時間分解測定する手法を確立してきました。

 

続いて、 世界最高強度のテラヘルツ光の発生に成功し(2011)、今回の受賞対象である、テラヘルツ極端非線形分光の領域で数多くの成果をあげました。

 

「極端非線形光学現象」は、物質中の電子系と光の相互作用エネルギーが、基底状態の電子系を特徴づけているエネルギー(イオン化エネルギーやバンドギャップエネルギー等)と同程度かそれを上回るときに発現する光学現象です。

 

田中教授は、照射する光の周波数をテラヘルツ領域まで低くすることにより、対象を破壊することなく極端非線形光学現象を観測できると着想し、パルス波面傾斜法に基づく高強度テラヘルツ光源の開発を行いました。

 

その結果、パルス尖頭電場値で1.2MV/cm(尖頭磁場値は0.4T)を超えるテラヘルツ光源を世界で初めて実現しました(2011)。

 

この高強度テラヘルツ光源を用いて、半導体における巨大なキャリア増幅、強磁性体における強大な磁化変調、グラフェンにおける可視光スイッチ現象などの極端非線形光学現象を明らかにしました。

 

これらの田中教授の先駆的な研究により、固体におけるテラヘルツ極端非線形光学の研究は、実験、理論とともに世界中に広がり、新しい発見につながっています。

 

 

 

仁科記念賞
http://www.nishina-mf.or.jp/prize.html

 

高強度テラヘルツパルスによる相変化材料の新たな結晶成長機構の発見
- ナノスケールの新規メモリデバイス開発に期待 -
http://www.kyoto-u.ac.jp/research/research_results/2018/181019_1.html