鈴木俊法 本研究科化学専攻教授、山本遙一 同博士課程学生、Ruth Signorell スイス連邦工科大学教授、David Luckhaus 同博士らの共同研究グループは、水中に捕らえられた電子(水和電子)の最安定状態のエネルギーを決定することに成功しました。

 

本研究成果は、2017年4月29日午前3時に米国科学振興協会の学術誌「Science Advances」に掲載されました。

研究者からのコメント

 液体の水と電子という自然界で最も普遍的な組み合わせについても、未だ実験値も計算値も確定しない基本的な問題が数多く残っています。水和電子の最安定状態に関する本研究は、この基本的な問題を理解するための第一歩であり、今後は短寿命でエネルギーの高い状態の研究に進みたいと考えています。

概要

放射線による生体細胞の損傷は、細胞の大部分を占める水の放射線照射イオン化によって始まり、電子の発生と後続する不安定で反応性の高いOHラジカルによる遺伝子への攻撃が主な要因と考えられています。((1)H2O+放射線→H2O++e-(電子)、(2)H2O++H2O→H3O++OH、(3)OH→DNA等に攻撃)

 

OHラジカルが水中を移動(拡散)して化学反応を起こす速度は比較的遅いため、種々の研究例がありますが、電子運動は非常に高速なため未解明の問題が多く残されています。電子は水中で運動するうちにエネルギーを失い、最終的に水分子の隙間に泡のような水和電子となって捕らえられると考えられています。この水和電子がやがて水溶液中の分子に付着すると、還元化学反応を起こしますが、反応性は水和電子のエネルギーによるため、電子エネルギーを正確に知ることが放射線化学の解明に重要でした。

 

そこで本研究グループは液体の水に二つのレーザー光を当て、時間差で分子内の電子運動を観測する時間分解光電子分光という実験を行い、詳細な理論解析によって、水和電子のエネルギーを正確に決定することに成功しました。その結果、これまで3.3電子ボルトだと考えられてきた水和電子のエネルギーが3.7電子ボルトであり、従来の推定よりも安定した状態であることが分かりました。

図:液体の光電子分光と解析による水和電子の真のスペクトルの抽出
 

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