杉山弘 本研究科化学専攻(物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス))教授、板東俊和 本研究科化学専攻准教授、河本佑介 同大学院生、前島一博 国立遺伝学研究所教授、佐々木飛鳥 同大学院生らの研究グループは、国立国際医療研究センター研究所、株式会社ハイペップ研究所国立遺伝学研究所と共同で、細胞老化・がん化に重要な役割を担うテロメア配列を組織切片の細胞において簡便かつ迅速に標識する方法を開発しました。

 

本研究成果は、2016年7月6日午前10時(英国時間)に英国オンラインジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

本検出方法は、熱や変性剤によるダメージを伴わずに、簡便かつ感度良くテロメアを標識することができるため、これまで利用されているFISH法(蛍光色素などで標識した核酸プローブを用いて、標的塩基配列を可視化する方法)に代わる新たなテロメア標識法として臨床研究に広く用いられることが期待されます。また近年、超解像顕微鏡技術を用いたクロマチン(核内に存在するDNA、ヒストン、および非ヒストンタンパク質からなる複合体)構造の研究が盛んに行われています。超解像顕微鏡技術と本テロメア標識法を組み合わせることによって、核内でテロメアクロマチンがどのような形態をとっているのか、本来の細胞内空間情報を保持した状態で観察できると考えられます。今後は、テロメア付近のクロマチン構造の変化を詳細に捉えることで、老化やがん化におけるテロメアの役割が明らかになると期待されます。

本研究成果のポイント

  • 染色体テロメア配列を認識するピロール・イミダゾール(PI)ポリアミドを用いて、ヒトのがん病理標本におけるテロメア短縮を簡便かつ迅速に検出することに成功した。
  • PIポリアミドを用いると1細胞レベルでテロメア長を定量的に測定でき、免疫染色との併用も可能
  • 従来のテロメア標識法に代わる新たな標識法として、基礎研究のみならず老化やがん化などの臨床研究への応用も期待される。
 

概要

染色体の末端はテロメアと呼ばれる繰り返し配列により短縮から保護されています。ある種のがん細胞では、テロメアの長さが短くなっていることから、テロメア長はがん診断の一つの指標になると考えられています。

 

これまでテロメア長の測定にはFISH法が利用されてきましたが、解析に1日以上を要する上に、細胞内の構造を壊す恐れのある熱処理も必要とすることが課題でした。研究グループは、これらの問題点を克服する新化合物「ピロール・イミダゾール(PI)ポリアミド化合物」を用いた標識法を開発してきました。

 

本研究では、マウスやヒト凍結組織切片にこの標識法を応用することに成功しました。PIポリアミドは免疫染色と併用できるため、組織切片において細胞増殖マーカーでがん細胞を特定しながらテロメア長を測定することに成功しました。

 

本研究の成果により、PIポリアミド化合物は、簡便かつ高精度な一細胞レベルでのテロメア長の測定法として、基礎研究のみならず臨床分野において広く用いられることが期待されます。また本技術は、細胞内の空間情報を保持したままテロメアを標識できるので、超解像顕微鏡技術と組み合わせることにより、細胞が持つテロメア構造の本来の姿を捉えることで、老化やがん化の研究に寄与することが期待されます。

図:PIポリアミドによるテロメア染色。(A) テロメア染色の概要図。緑の丸は蛍光色素。(B) 間期の細胞(左)および分裂期の染色体スプレッド(右)をPIポリアミドで標識した画像。青色はDNA染色を示す。染色体末端の標識されたテロメアが緑色のドット状で示されている。
 

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