地球熱学研究施設・教授 楠本 成寿

 
 

重力異常や重力偏差をとおして地下を探る研究をしています。重力異常とは,重力計で計測された重力値から地球の質量と形から決められる正規重力値を差し引き,さらに測定点の高さと地形の影響を補正して得られるものです。重力偏差とは,重力異常の空間変化率のことです。重力異常の微分値になりますので,感度は重力異常よりも高くなります。重力異常は1測定点につき1つの観測量ですが,重力偏差は1測定点につき9つの観測量をもつテンソルになります。したがって近年の重力偏差を用いた地下構造解析には,固有値や固有ベクトルを用いる手法が登場してきています。代表的な手法として,重力偏差テンソルの最大固有ベクトルが高密度物体に向く性質を用いて,表層に貫入した岩脈の傾斜角を推定する手法などが挙げられます[1-2]。

これらの研究に刺激され,重力偏差を用いて断層傾斜角を推定出来ないかということに私もチャレンジしています。重力異常や重力偏差で断層を捉えられるのは,縦方向に岩盤がずれる正断層と逆断層です。研究の結果,正断層の断層傾斜角は重力偏差テンソルの最大固有ベクトルを,逆断層の傾斜角は最小固有ベクトルを用いて推定出来そうだということが分かりました[3] (図 1)。

ところで,重力異常や重力偏差を用いて地下の密度分布を推定することもできます。地熱地域での資源探査では,密度分布と並んで岩石の間隙率分布を知ることも重要です。これまでは,推定された密度が標準的な値からどれだけずれているかが議論され,地下の状態が解釈されてきました。もし地質が大きく変わらない中で密度変化が生じるのであれば,岩石の間隙率の変化が密度を変化させていると考えることができます(図2)。現在,重力異常から間隙率分布を直接推定する手法の開発にも取り組んでいます[4]。

 

[1] Beiki, M., and Pedersen, L. B., 2010, Geophysics, 75, I37–I49.

[2] Beiki, M., and Pedersen, L. B., 2011, Geophysics, 76, I59-I72.

[3] Kusumoto, S., 2017, Prog. Earth Plan. Sci., 4:15.

[4] 楠本ほか, 2021, 物理探査, 74, 30-35.

図1 単純化された堆積盆地に起因する重力偏差テンソルの固有ベクトルの向き.最大固有ベクトルは紫色,最小固有ベクトルは緑色.(a) 正断層で区切られた堆積盆地.最大固有ベクトルの向きと正断層の傾斜角が調和的.(b) 逆断層で区切られた堆積盆地.最小固有ベクトルの向きと逆断層の傾斜角が調和的.[3]に加筆.
図 2 重力異常を説明するモデル.(a) 周囲と密度が異なる物体により重力異常を説明するモデル.
(b) 周囲と間隙率が異なることにより重力異常を説明するモデル.