今年度は、11月6日(土)に学術講演会、11月22日(月)に研究交流会と、2日に分けて開催しました。昨年度は新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、研究成果発表などの動画をウェブにて公開するにとどめました。今年度もコロナ禍の終息を見ない中での開催になりましたが、一方向の情報発信にとどまるのではなく、何とか双方向での交流をという思いからオンラインで実施いたしました。
従来、サイエンス俱楽部デイは寄附という形で本研究科を支援してくださっている方々に参加していただき、学生、教職員との交流を深める場でした。今年度は企業や国立の研究機関の方々にもお声がけし、学生及び若手研究者がそれらの方々との意見交換等の交流を通して自分の進路・キャリアパスを考える機会となることを期待して企画しました。ちょうど令和2年度下期から国策として博士課程学生の支援事業「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」が始まり、その中で博士課程学生のキャリア支援が求められていました。今回のサイエンス倶楽部デイはその要請に応えることも目指しました。
また、時期を同じくして、理学研究科全体が参加できる産学連携のあり方についてワーキンググループを立ち上げて議論を開始したところでした。それで今年度のサイエンス俱楽部デイでは、企業からの参加者に基礎科学の醍醐味である、純粋に科学を楽しむ教員と学生の姿を感じていただき、その上で京大理学に何を期待するか意見を尋ねる場も設けました。
学術講演会
最初に國府寛司研究科長から理学部、理学研究科の紹介がありました。最初は理学の各分野を広く学び、それを基礎にして徐々に専門を深めていく「緩やかな専門化」という理学部の教育方針が語られました。次に北川宏教授(化学専攻)と高橋淑子教授(生物科学専攻)による、それぞれ55分の学術講演が行われました。全体で100人を超える参加者がありました。
北川教授は、「多元素ナノ合金技術が切り拓くサイエンスと未来」という演題で、ナノ粒子という形で元素融合を実現した研究成果について講演しました。原子番号は陽子の数、当然自然数ということになりますが、原子番号が有理数の元素はないのか、という奇想天外な発想から一連の研究がスタートしました。そしてその作成に向けて、あるときは理論的に検討し、あるときは施行錯誤を重ね、時には誰も試みたことがないような高温、高圧条件を実現して研究を進めました。その冒険ストーリーに参加者は魅せられました。
高橋教授は「腸という秘境をたずねて」という演題で、まずしっぽの形成という、一見演題とは関係のない話題から入り、しっぽ形成のもととなるセカンダリーニューレーションが後腸を支配する神経系形成にかかわっていることを説明して、脊椎動物が普遍的に有する尾の発生学的な重要性を指摘した後に腸の話へ移りました。腸については、蠕動運動に関する解剖学的な解析からその分子機序に関する最新の解析結果までを示し、研究するワクワクの心こそが次の世代を作る理学の心、と締めくくりました。講演内容の面白さもさることながら、高橋教授の親しみやすい語り口に、参加者は時間のたつのも忘れて聞き入りました。
研究交流会
研究発表者として教室推薦の12名に加え、博士課程の学生のほかポスドクも含め広く参加を募りました。その結果、55名の学生の応募・参加がありました。各自趣向を凝らした研究発表動画を作成してくれました。動画は11月1日から令和4年1月5日まで理学研究科のウェブにて公開され、その間、2,800回のアクセスがありました。その中で学外からのアクセスは1,953回でした。
研究交流会は、第一部として12名が3つのグループに、第二部として55名が4つのグループに分かれて実施しました。それぞれフラッシュトークののち自由に質疑応答する形で、若手教員のファシリテートのもとそれぞれ1時間20分の交流を楽しみました。
ただ、研究発表動画への外部からのアクセスは多かったものの、研究交流会そのものへの外部参加は20名程度と、期待したほど多くなかったのは残念でした。イベントの広報期間が短かったことがその要因の一つとして考えられました。なお参加学生からは、普段は話す機会のない分野の人との交流を評価する意見や、深い議論ができず不完全燃焼であったとする感想など、忌憚のない声が数多く寄せられました。オンラインでの研究交流の実施方法について今後の参考にしたいと考えています。
理学研究科に何を期待する?~意見交換~
研究交流会第一部と第二部の間に50分の時間をとり、理学研究科に対する意見を聞く場を設けました。73名の参加があり、学外からは、京セラ、堀場製作所、トヨタ自動車などの企業、情報通信研究機構などの国立の研究機関、東京大学などからの参加がありました。
研究科長から理学研究科の抱える課題が率直に示され、それに関連して参加者に意見が求められました。意見収集は投票形式で行われました。オンラインならではの即時集計で回答が整理され、京大理学に対し多くの人が、
・事物の真理の解明から開ける未来のイノベーション
・理学研究の学識と経験を持つ若手人材の育成
に期待を寄せていることが分かりました。具体的なイベントとして、以下の2つがトップ2でした。
・博士課程学生との交流
・社会人博士の受け入れ
今後の活動の参考にしたいと考えています。また、研究科長が提案した理学研究科応援団構想に対し、支持する声が大きかったことは心強いと感じました。
理学研究科銀楓賞
今回のサイエンス倶楽部デイを機に、新たに「理学研究科銀楓賞(ぎんぷうしょう)」を創設し、理学分野における顕著な研究成果を挙げ、理学研究科サイエンス倶楽部デイにおいて、理学に関心を持つ方々に向けて優れた研究発表を行った博士後期課程学生を顕彰することにしました。研究交流会参加者の投票結果をもとに、今回は以下の5名に授与されました。
池田 湧哉 さん(数学・数理解析専攻 数学系)
「 量子群と幾何学」
村山 陽奈子 さん(物理学・宇宙物理学専攻 物理学第一分野)
「強相関電子系における回転対称性の破れを伴う新奇量子相の解明」
反保 雄介 さん (物理学・宇宙物理学専攻 宇宙物理学分野)
「せいめい望遠鏡で探る爆発に満ちた宇宙の姿」
中田哲 さん (数学・数理解析専攻 数学系)
「 絶対起こりえない事を証明するには?」
大井川 智一 さん (地球惑星科学専攻 地球物理学分野)
「シミュレーションで見る極域の超高層大気~大気密度の謎に迫る~」
おめでとうございます。今後、理学研究科銀楓賞が博士課程の学生の皆さんの励みになる賞として定着することを願っています。
(令和3年度サイエンス倶楽部デイ事務局 柏﨑 安男)
サイエンス倶楽部について
本研究科では平成27年6月に理学研究科寄付金の基金を設立するとともに、後援者・同窓生・学生・教職員を構成員とする京都大学サイエンス倶楽部を立ち上げました。サイエンス倶楽部デイは、「理学の新しい芽を育む」をテーマに、本研究科の活動状況をサポートして頂く方々に広く知っていただくとともに、構成員相互の交流と親睦を図り、連携を深めることを目的として開催しています。