参加感想(SG9)

 理学研究科 物理学第一教室 時空間秩序・生命物理学研究室 幕田 将宏


 この度、2019年8月19日・20日の2日間にわたり北海道大学で開催された数理連携ワークショップに参加・聴講をしてきましたので報告いたします。
このWSは理化学研究所 iTHEMS、京都大学 SACRA、東北大学 AIMR、北海道大学 MSCの4拠点の主催で参加者は50名ほどで8件の講演が行われました。生命・医科学を主題とした非常に興味深い講演を多数聞くことができました。いずれの講演もストーリーが分かりやすく話され、また、対象とする現象へのアプローチの仕方や、モデリングの過程などの解説に時間を割いてくださる講演者が多かったため、報告者自身の研究や発表の参考にもなり、有意義な研究会でした。



京都大学医学部医学科 学部2回生 大谷暢宏

まだ学部2回生の若輩者ですが、この度参加させていただきました北大でのワークショップはとても刺激的なものでした。今後どのような研究に取り組んでいくか、どのような研究者を志していくか。数理を基盤にした医学研究という大きなテーマはありながらも、実際に取り組まれている方にお話を伺える機会はそう多くはなく苦心しておりました。そのような中、実に様々なバックグラウンドを持つ研究者の方々の生命医療分野に対した数理によるアプローチを2日にわたって拝聴させていただいた本セミナーは実に幸福な時間でした。今回の経験を生かして今後MACSの研究に取り組んでいきたいです。



京都大学理学研究科動物学教室 修士課程1回生 吉田純生

この度私は生物学を専攻しておりますが、数理が生物学の研究でどのような役割を果たしていくのか、数学者の先生方が生物学をどのように捉えて研究を進めているのかが知りたく、北大のワークショップに参加させていただきました。今回のワークショップに参加して気づいたこととして、生物学者と数学者で研究内容に対して疑問を持つ点が異なることです。生物学者の方々がワークショップの公演を聞いて疑問をもたれる点としましては、研究者が提案したモデルに対して「そのモデルを立証するための〇〇のような実験データはあるのか?」といったそのモデルの正確性を実験的な視点から検討しようとする姿勢が強いように感じました。対して、数学者の方々は提案されたモデルに対して「モデルの数式の⬜︎⬜︎の項の導出は正しいのか」といったそのモデルの正確性を理論的な視点から検討する姿勢が強いと感じました。また、個々の数理の先生方議論もさせていただき、数理の先生方がモデルを立てる上でどういった実験データが欲しいのかなども知ることができ、非常に有意義な経験をさせていただきました。また、今回の経験から、生物学のバックグラウンドを持つ自分のような人間が、数理の研究をされている方々などに自分の研究を説明する上でどのような発表をするべきか、どのようなデータを提供すればいいのかの参考になりました。
 最後に、今回このような研究会に参加する貴重な機会を頂いたことに一同心より感謝申し上げます。

 

参加感想(SG3)

理学部2回生 村上吉郎
 
 まず始めに、今回のワークショップにおいて印象的であった講演内容について述べる。
①「分化の波の数理モデルとその解析」 栄 伸一郎先生
個体発生において、特定の機能を持たない未分化細胞が遺伝子の発現状態を異所的/経時的に変化させることで様々な形質をとることを分化と呼ぶ。また神経幹細胞への分化は発生の過程において波状に伝播することが知られており、この現象を「分化の波」(Proneural wave)と呼ぶ。Delta-Notchシグナル系による側方抑制:ある細胞において神経幹細胞への分化のバロメーターとなりうる遺伝子であるAS-Cが発現すると、Notch Signalが隣接する細胞に伝えられてAS-C発現を抑制する。この現象によって通常AS-Cの発現パターンはゴマシオ状となる。数値シミュレーションの結果、Notch Signalが分化の波の進行を抑制(コントロール?)していることが予測された。数値シミュレーションにおいてはシグナルネットワークを保持したままいかに数値の連続化および変数の逓減を図れるかが重要。こうした研究において工夫のしどころはシミュレーションの題材としてどの生命現象(特定のタンパク質の挙動やシグナル伝達経路)に着目するか、およびその一連の現象をどのように数理モデルで再現するかの2点に集約されると考えるが、前者は生物学寄り、後者は数学寄りのテーマであるので異分野の専門家同士が協力することの重要さを改めて感じた。
②「ニワトリ胚観察を通じた数理の可能性の探求」高瀬 悠太先生
秩序立った血管パターンの多くは血管リモデリングと呼ばれる現象によって未熟な原始血管網から形成される。この現象のメカニズムを解明するにあたって、観察および実験操作が容易なトリ胚の胚体外血管網を用いた。トリ胚のライブイメージングによって原始的な血管網から血管が形成される様子が観察された。また、リモデリング前は非血管領域と呼ぶ内皮細胞によって裏打ちされていない、下部の組織が露出した領域が血管網の中に点在しているが、リモデリング後は非血管領域同士が融合していることがわかる。血流の存在とリモデリング発生の相関関係を検証するため、片側の血管を粘性が高い液体で塞ぐことで局所的に血流を止めた。その結果、血流がある側ではリモデリングが起こったが血流を止める操作を行った場合リモデリングが起こらなかった。よって血流が血管網のリモデリングを制御しているという仮説を設定できる。考察の結果、血流(メカノストレス)の強弱に応じて内皮細胞は異なる挙動を示すことが分かった。またこの現象を・血流・細胞の挙動(剥離、逆移動)・血管組織の局所的な変形•非血管領域の変形 という4つのプロセスに分割して考えることで数理モデルを構築した。
 全体を通した感想として、研究者同士の意見交流の場に参加できたことは将来のイメージをつかむ上でとても貴重な経験になったと感じた。最後に、このような機会を頂けたことを諸先生方に感謝いたします。ありがとうございました。


 
理学部2回生 東島いずみ
 
はじめに、このような機会を頂けましたことを関係者の皆様に感謝いたします。本研究集会への参加レポートとして、下記3点について報告します。
 
➀参加動機
 SG3の活動や先輩の話を通じてどんな分野でも数理解析や数理モデルが活用されていることに興味を持ちました。
 
②参加した感想
 生物をバックグラウンドに持つ発表者の方の発表は解析の部分があいまいな説明で少し物足りなかった(生物の人なりにかみ砕いた発表かと思った)が、解析の専門の方は説明が早くてメモを取るので大変だったし、わからないことも多かった。興味深かった発表は「冠動脈の血流量解析」と「体内時計の温度補償性」の二つだった。前者は血管一周を回路と捉えているのと、それに伴い境界条件を用いて考えている点が考えたことがなく新鮮だった。後者は植物分子遺伝学の授業の知識をもとに楽しんで聞くことができた。線形、非線形の使い分けがよくわからなかったが、複雑な反応にすることで温度の影響を受けにくくすることは直感的に分かったがひずみに関する指標が明確に定められることで具体例に当てはめることができた。体内時計の発表を行った儀保さんとは懇親会で体内時計と時差ぼけの話や、虫の鳴き声のリズムの話をした。音響工学を様々な波の現象に応用できる儀保さんを見て、私も物理の勉強をきちんと続けようと思いました。
 
③今後への参考
 将来の進路に関しては現時点では変化ありませんが、上に書いたようにとりあえず、物理の専門の授業にきちんとついていくことを目標に後期を頑張ろうと思いました。


 

集合写真(WS Webサイトより)


 

懇親会で活発に議論している様子



「数理が紡ぐ新しい科学研究」連携ワークショップ 第一回 -生命医科学と数理科学-
http://sci.kyoto-u.ac.jp/academics/programs/macs/math-sci-workshop/20190819.html